本日はカードゲーム日和｜リアクション

本日はカードゲーム日和

【本日はカードゲーム日和】
　シーサイドタウン。ホビーショップ「Ze pet」。2階カードゲーム売り場。
「いらっしゃいませ。「エレメンツ＆ドレイクス」の教室は奥の方へお進みくださーい」
　その日、アルバイト店員の八重崎五郎八はかつてないほどの盛況ぶりに、忙しく店を動きまわっていた。
　イベント記念価格で飛ぶように売れる「エレメンツ＆ドレイクス」のパックやブースターを補充していると、また一人お客さんが五郎八に声をかけてくる。
「あの「ニャンジュ・フミャルジュ」の『魔法少女ミスティックアリア』のパックってどこにありますか？」
「あ、ごめんなさい。今日はイベントで、一部商品の配置が変わってるんですよー」
　それなりに常連と思しき口ぶりのその客は、五郎八と同年代の若い少女だった。
　五郎八はてきぱきと目的の商品が並ぶコーナーに案内する。
「『魔法少女ミスティックアリア』は――こちらですね」
「あ、本当だ。ありがとうございます」
　目的のパックを見つけた少女の瞳が一瞬幼い女の子のようにきらきらと輝いたことを、五郎八は見逃さなかった。
（こういう表情を見ると、このバイトをしててよかったって思えるんだよね）
　などと、思っていると、また次の客から声がかかる。
「あの、「エレメンツ＆ドレイクス」の教室をやってるって聞いてきたんですけど」
「あ、はい。フロアの奥でやってますよ。今、ご案内しますねー」
　五郎八はすでにカードの物色を始めている先の少女に一礼し、次に声をかけてきた少女を奥に案内しはじめた。

　落合まゆらは、今し方自分を案内してくれた女性が慌ただしく去っていく背中をちらと見やった。
「面倒見の良さそうな店員さんね。あれは店長以上に働かされるタイプね、きっと」
　かすかな同情を滲ませつつ、まゆらは『魔法少女ミスティックアリア』のパックに視線を戻した。
（さあ、どれを買おうかな。お小遣いは限られてるから、真剣に選ばないと……！）
　瞳にきらりと真剣な光を輝かせて、まゆらはパック選びを始める。
　実を言うと、まゆらはゲームとしての『ニャンジュ・フミャルジュ』をプレイしたことはない。
　彼女は専門学校の声優学科に通学する、いわば声優の卵であり、コレクターズアイテムのひとつとして『ニャンジュ』のカードも集めていたのだ。
（……「集める」って言っても、『経済的に無理のない範囲で』だけどね）
　以前、このZe petでいわゆる大人買いをしていく大人の姿をふっと思い出し、まゆらは苦笑した。
（あれに比べれば、この間、私が買った水着のフィギュアなんて散財のうちに入らないわよ。……店員さんには変な顔されたけど）
　先日、掘り出し物の水着美少女フィギュアを思わず即決で買ってしまう程度にはアニメ好きのまゆらだが、同年代の少女に同好の士は少なく時折奇矯な目で見られることも多い。解せない。
　さておき、自身の運と直感を信じ、まゆらは『魔法少女ミスティックアリア』ブースターパックを5つほど選んでレジに向かった。
「ありがとうございました」
　店長（？）と思しき男性に手渡して会計を済ませ、さっそく開封するために休憩スペースに向かう。
「……うーん。やっぱりなかなか欲しいレアカードは当たらないわよね。あ……」
　最後の1パックで、なんと欲しかった高レア度のカードを発見し、まゆらは思わず拳をぐっと握り締めた。
（このアリアがあまりにもカッコ良くて、私、声優を目指し始めたんだよね……）
　当時の制作スタッフによる描き下ろしの美麗なイラストを見て、思わず「はふぅ……」とため息が漏れる。
（……あ、こんな顔してたらまた変な目で見られちゃう）
　慌てて表情を取り繕いつつ、まゆらは改めて今回の戦利品を一枚一枚確認していく。
（……どのカードも凄く綺麗。レア度云々の前に、ファンからしたらこれだけでお値打ち品よね）
　まさに眼福。
　しばらくこの幸福を噛みしめつつ、まゆらはその後適当に店内を見て帰ることに決めた。

このページにイラストを設定する