魅了された寝子島｜リアクション

魅了された寝子島

　美野梨とティオレ、吉田先生は城の廊下を駆けていた。
「先に恵御納さんが行ってるはずだから、合流しないと」
　すると、廊下の先からどうどうと歩いてくる槍を持った人間達の姿が。
「おう！　来たか」
「洗脳された人達を戻していくのも勝ちの一手だと思うわ」
　ティオレが冷静に言う。
「気をそらすから、二人は攻撃して」
　そう言って美野梨は一歩前に出た。
「あなたたち、この猫たちを攻撃できるの？」
　抱いていた猫を床に下ろす。前足で耳を掻き、肉球をペロペロと舐める。
　すると人間達に、あからさまに動揺が広がった。
「この子達はいるだけで癒しなのよ。ほら、ごろんした」
　猫は腹を見せて尻尾を動かしながらにゃあ～とかわいらしく鳴く。
　美野梨は二人に合図した。
「どりゃあああっ」
　まず、吉田先生のはりてがヒットした。
「よっしゃあ、お前ら行けッ、ここは任せろ！　すぐに追うからな」
　美野梨とティオレは吉田先生の横をすり抜けて、駆け出した。全て普通の人間だ。すぐに追いつてくるだろう。
　しばらく走っていると、
「待って」
　ティオレの声に足を止める美野梨。
「そこに罠があるわ」
「え？」
　通路にピアノ線が張られていたのだ。
「危ないから解除するわ」
　頑丈なハサミとドライバーを取り出し、爆発物の入った機械を分解した後、ピアノ線を緩めて切る。
「これで大丈夫。さあ、早く」
　と、奥で爆発音が聞こえた。それから女の悲鳴も。
「もしかして」
　夏朝がルネの討伐に成功したのかもしれない。

　葉月は長剣で夏朝の頬をかすった。
「ルネ様に触れることは許さない」
「いっ痛、正気に戻ってよ！　あいつは島を乗っ取る気なんだよ！？」
　スカートを舞わせ、華麗に回転したルネは長剣を構えた。その緑色の瞳は強い意志を持っている。光彩の一部がピンク色になっているので、洗脳されているのは間違いない。
　長剣を振りかざした葉月、夏朝はそれを折り畳み傘で受け止めるしかない。
「あなたも、ルネ様に仕えれば幸せになるわよ」
「悪いけど、お断りだね！　ルネ！」
　夏朝はルネを見やった。
「この島を好きにはさせないから」
「傘で葉月に勝てるとでも？」
「余裕こいてると、ね」
　その瞬間、ハバネロより辛いブート・ジョロキアパウダー入りの風船がヒットした。
「かはッ！？」
　顔面に当たったのだ、しばらくは動けないだろう。
「けっほ、けほッ」
「ルネ様！」
　葉月の気がそれた。夏朝はつばぜり合いの状態から力を抜き、彼女のバランスを崩す。
「あっ」
　葉月の横を抜ける。
　萌とユウも走り出していた。
　まだむせているルネに三人で全力で体当たり。
「きゃっ」
　短い悲鳴を上げたルネ、夏朝は素早く立ち上がって、ルネの右腕を踏みつけた。容赦はしない。骨が折れた音がした。
「がああああっ、おまええええっ」
「僕、許さないから」
　夏朝が冷ややかに言う。
「葉月！　ささっとこいつらを」
　体を起こした葉月はぽかんとしていた。
「ここは？」
　どうやら洗脳が解けたよう。
　と、美野梨、ティオレ、吉田先生が部屋へ駆け込んできた。
「ざんねーん、巨乳さんに味方なしだね」
　萌が言って、
「追い詰めたのね。思ったより早く帰れそうだわ」
　ティオレも息を吐いた。
「恵御納さん、大丈夫？」
「おう、こりゃ解決しそうだな！」
　後はとどめを刺すだけだ。
「う……こんな島に価値なんてないわっ」
　ルネはよろけながら近くの窓に飛びつき、
「脆弱な人間め、覚えていなさいっ」
　ルネはそのまま飛び降りて島を去ったようだ。気づけばピンク色の空気は霧散していた。
　そして、この場にいる全員のスマホが鳴った。
『おめでとう、お疲れ様』
　エレノアからのメッセージだった。

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