魅了された寝子島｜リアクション

魅了された寝子島

　葉月は崇拝するルネの前でキャンバスに鉛筆を走らせていた。
「ふむ。気分が良いわね。完成が楽しみだわ」
　一糸まとわぬ姿に薄い布を巻いただけの格好は扇情的だ。その美しさに手が止まりそうになるが、心を落ち着かせる。
「ん」
　穏やかな表情だったルネが眉を寄せた。
「ごみが入り込んだかしら」
「！」
　葉月はふつふつと沸き上がる怒りを感じた。どうやら魅了されていない連中が乗り込んできたらしい。
「私にお任せを」
「ん？　そう？　万能ね、葉月」
　名前を呼ばれるだけでぞくぞくする。
「もちろん」
　一礼した。

　　魅了されていない住人に情報提供を終え、一息つく。指はPCのキーボードを叩いている。
　公式アカウントに『この通り血を捧げてます』とリプを飛ばしまくる。
　すると、デマを否定する呟きが投稿された。それと同時にダイレクトメッセージが飛んでくる。
『我々の信者を惑わす者達よ。天罰がくだるだろう』
「ふーん、天罰？」
　と、作ったアカウントの一つがいきなり凍結された。
「！」
　リプの先導していたサラリーマンアカウントだった。どうやら攻撃を仕掛けてきたようだ。
　しかし、すでに遅い。
　窓の外へ視線を向けると、流血している信者が多数見られる。
　最後の仕上げだ。
「寝子島には洒落たジョークが相応しい。お前を慕う信者にこれ以上血を流させたくなきゃ洗脳を解除しやがれ。寝子島住民を人質に取ってるのはお前じゃない、この私だ」

　萌は映像に見惚れて、ルネ様万歳を始めたユウに近づく。映像はすでに録画に切り替わっているようだが。
「ばんざーいっ」
「ばんざーいっと」
　萌は彼の口にハバネロパウダーを突っ込んだ。
「がっほっ！？」
「ユウく～ん、何を見ているのかな？」
「げっほっ、げほっ……鬼河内？」
「正気に戻った？」
「……何も覚えてない」
　そう言って、目線をそらす。
「覚えてる、とか聞いてないんだけどなあ？」
　萌は怒りのオーラを出しながら、笑いかけた。
「そ、それはそれとしてこの状況はやばいよな！　なんとかしないと」
「随分と物分かりがいいね？」
　まるで最初から意識があったみたいだ。
　責めるのはあとだ、ふたりは城の奥へと進む。

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