教えて若人！　流行っている言葉はなんですか｜リアクション

教えて若人！　流行っている言葉はなんですか

　日曜日。シーサイドタウンのとある喫茶店。
　いつもと様子が違い、店内には寝子高教職員がずらりと並んで座っていた。
　店の前には『流行語調査にご協力くださった方に１オーダー無料』という看板が立っている。
　理事長の思い付きで、寝子島流行語調査が行われることとなったのだ。
　若人たちに流行語を学ぶという企画だが、特に年齢制限はない。

　篠原翠響は、寝子島スポーツセンターへ新体操のトレーニングに向かうところだった。
「流行語調査？　まあ、時間はあるしいいですけど」
　たまたま時間を勘違いしていた翠響は、時間つぶしにちょうどいいと調査に協力することにした。
　すでに数名の若者と大人が集まっていた。
「開始時間だけど……まずはオーダーを決めちゃって」
　まゆ先生が時計を見た時。
　ブオオオオン！
　突然爆音が響き渡ったかと思うと、窓の外にオートバイが止まり、ヘルメットを脱いであずさ理事長が降りてきた。
「お待たせ。それじゃ簡単に自己紹介をしてもらえる？　私は寝子高理事長の桜栄あずさ。オーダーはコーヒーで」
（これが理事長？　寝子高ってすごい……）
　驚きながら、翠響は自己紹介をする。
「寝子島中学３年の篠原です。フルーツパフェをください」
「寝子高３年の志波武道でっす！」
　眼鏡の青年が明るく挨拶する。
「流行は知るものじゃない、乗り、そして起こすものなんだ……！　アッハイカッコいいこと言ったつもりで実はあまり知りませんテヘ！」
　ボケた後、真面目な顔に戻って続ける。
「でも、知ってると話も広げやすくなるからな、俺も勉強させてもらおっと！　あ、俺はコーヒーお願いします！」
「旧市街で天神平薬局をやってます天神平庵です。学生ではないけど２１歳だから若人を名乗ってもいいですよね。ワンドリンク？　じゃあメロンソーダ」
　一房だけピンクの髪の三つ編み眼鏡の女性が挨拶した。
「寝子高二年芸術科の旅鴉月詠。雑学は好きだ。コーヒーをいただこうか」
「寝子高教師の相原まゆです。こちらが浅井先生、それから黒崎先生に、早川先生」
「よろしく」
　まゆ先生に紹介された先生たちは頭を下げた。
　まゆ先生と浅井幸太先生がコーヒー、黒崎俊介先生と早川珪先生が紅茶を頼む。
　ウェイトレスへの注文を終え、月詠の向かいに座っていたまゆが月詠のほうに向き直った。
「月詠ちゃんは、なるはやってもう使わない？」
　少し肩に力が入っている。結構気にしていたらしい。
「聞かなくなった、というのは間違いないですよ。何故なら日常会話では使う人間が少なくなりました」
　月詠がさらりと答えると、ほらね、と言いたげな表情で、隣のテーブルの浅井幸太が頷いた。
　そちらに軽く睨みをきかせてからまゆ先生は、月詠に尋ねる。
「日常会話では？　他のところで使われてるってこと？」
「御察しの通りSNSです。喋るより書きこむ時代になりました」
「ふーん……」
「テレビを見る若者が少なくなったのもあるでしょう。口では分かりにくい言葉が流行したりしてますね」
　月詠は流暢に語る。
「それじゃ今はなんて言うの？」
　まゆ先生の問いにもよどみなく答えた。
「今だと『秒で』でしょうか」
「秒？」
「『この漫画面白すぎて秒で読んだわ』などと使いますが、本気かどうかわからないですね」
「秒で読み切れるわけはないよね」
　黒崎先生が言う。
「読み始めるまでの時間を言ってるのかもしれませんが、例えでしょうね」
　早川先生が説明した。
「そうそう、なるはやは本来のビジネス的な要素があいまってあまり良い印象持たれてないので注意ですよ」
　月詠の注意にまゆ先生が驚く。
「えーっ、そうだったの？！　何がいけないの？」
「言葉は生きていますからね。使われていくうちに想定されていなかったニュアンスが生まれてきたりします」
「上から目線なのがよくないのかしらね……」　

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