【期末テスト】赤点？満点？？寒風、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？寒風、四日間の死線＜物語編＞

〇寝子ヶ浜の二人

　ホームルームを終えた椎井莉鳥は、テストを鞄の中へ仕舞いこみ、制服の上にダッフルコートを着込んで教室を出ました。
（部活再開は明日からだし、どうしようかな）
　下足場で靴を履き替え、外へ出たところで、莉鳥の足が止まりました。
（！）
　幼馴染で元カレの北里雅樹がそこにいました。

　来年京都大学理学部を受験する雅樹にとって、期末テストはほぼ楽勝でした。
（何しろあの猫鳴館で受験勉強してきたが、その悪条件がかえっていい結果をもたらしたのかもな。しかし気は抜けないな）
　ラストスパートをかければ、来年の春先には吉報が届いているはず、と雅樹は思いましたが。
（……尤もそれは、元カノで腐れ縁の莉鳥と今度こそ完全に別れてしまう、ということでもあるのだが）
　そんなことをぼんやり考えつつ、寝子島図書館で勉強でもしようかと外へ出ようとしたら……
　そこでバッタリと莉鳥に遭遇したのでした。
「「……」」
　日ごろから感情が顔に出ない莉鳥は相変わらず不愛想なまま。
　いつも眠そうな、なんとなくやる気なさそうな顔の雅樹も無言でした。
　二人はどちらともなく歩きだしました。
（あの時のキスの感覚がまだ残っている）
　とっくに終わった関係と思っていたのに、不意に求められたナイトプールでの口づけが生々しく思い出されて。
（来年の春、俺はこの島を出ていく。それで終わりの、はず。なのに、なんだって、いまさら……）

　二人は並んで、無言で歩きました。
　たどり着いたのは冬の寝子ヶ浜海岸でした。
　曇天の下に広がるのは鉛色の海。
　テスト期間中ほどの寒波ではないものの、吹き付ける風は冷たいものでした。
　寒々とした空と海は、それ自体がまるで自分たちの終わりに近づく関係を物語るようで。
（今までなら、バカなことをいう雅樹を私が容赦なく淡々と突っ込む、という図式が成立していたのに）
　互いに、言葉は出ませんでした。
　二人は海を見つめていましたが、時折ちらっとお互いに視線を向けています。
　風に吹かれつつ、二人は波が押し寄せるギリギリのところまで海に近づていきました。
（このまま立ち去りたい）
　けれど、互いにそれができないのでした。
　耐えがたい沈黙が二人の間にありました。
（来年には雅樹は卒業し、島の外の大学へ進学する。それで二人の関係は完全に終わる。本当はとっくに終わったはずの、関係なのに）
　何かを口に出したら、何かが壊れてしまいそうでした。
（あのナイトプールの夜以来、私の中で……まだくすぶってる……）
　それは莉鳥だけでなく、雅樹もまた。
　その正体は判っているけれど、口に出したら自分が壊れそうで……。
　耐えがたいほどの無言が、永遠に続くと思われたとき。

　ザッパーン！
「「！」」
　不意に大きな波が二人を洗いました。
　逃げる間もなく全身ずぶ濡れになり、二人はそんなお互いの姿を見合ったのでした。
　動揺の後は、吹きすさぶ風が容赦なく体温を奪いました。
「……早く風呂に入らないと」
　帰ろうとする雅樹に、相変わらず表情を変えない莉鳥が声をかけました。
「……私の家のほうが近いわ」
　そして海に背を向け歩き出します。
「……」
　震えながら雅樹はすぐに意味を理解し、莉鳥の後に続いたのでした。

　バスタオルを渡し、風呂を沸かす間も莉鳥は無言でした。
「……」
　幼馴染だけに、言葉がなくても大体言いたいことはわかります。
　それは便利なようで、なにか切ないことでもありました。
　雅樹が急いで風呂を使わせてもらい、家を出るのを見送るまで。
　結局二人は無言のままでした。

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