【寝子祭2nd】陸上部、出店！ ―『カフェ・アスリート』―｜リアクション

【寝子祭2nd】陸上部、出店！ ―『カフェ・アスリート』―

　だいぶお客が落ち着いた所で、拓郎はぱんぱん、と自分の頬を叩く。気合を入れなおしたようだ。
「志波もおつかれさん。お前がいればなんか陸上部は安泰な気がするよ。でもさ、一人で気負いすぎるなよ？」
　と正也が言えば、拓郎は少し照れたように目を細めつつも、真面目な顔で「はい」と答える。そして、ラッピングされたクッキーなどをトレーに入れ、それに店名、メニュー、金額を描いた紙を貼って呼び込みと販売の準備を整えた。
「志波君、外回り行くにー？」
「だいぶ、お客さん……落ち着いた、から」
　侑に見送られ、外回りに出る拓郎。
（みんながんばってるから、自分も……負けないように、頑張らないと……）
　気合は十分。拓郎はしっかりと声を出し、『カフェ・アスリート』の宣伝をしていく。
「カフェ・アスリート特製シューズクッキーいかがですかー！　お店では、ゆっくり座って味わえますよー！」
　彼のしっかりした声が、祭りの中に響いていく。

パンケーキやサンドイッチもありますー！
プロテインドリンクも試飲できますよー！

　拓郎の声で我に返った。そして時計を見れば、自分の休憩時間がもうすぐであることを知る。
（やっと休憩かー。適当にふらふらしてみようかな）
　北里雅樹は安堵の息を吐いたとたん、他の実行委員から休憩の時間を教えられ、さっそく昼食をとるべく屋台を探していた。
「どこも人が多いな」
　なんて呟きながらあたりを見渡し、適当なところに入る。と……、そこは陸上部がやっている『カフェ・アスリート』であった。
　ふと、店内を見れば幼馴染（であり元カノ）である莉鳥の姿があった。彼女が好む緑系のＴシャツ……今回はライムグリーン……を纏い、エプロンを装着していた。
　最近なんやかんやと疎遠になってきた２人。なんだか、莉鳥の背中が遠く見えるのは気のせいか。
（なんか、声がかけづらいな）
　なんて思いつつメニューに目を通している間に、「ご注文をどうぞ」と声がした。顔を上げれば、みるからに塩対応な莉鳥の姿が。
「コーヒーとサンドウィッチ。あと、すぐ食べたいからクッキーを」
「かしこまりました。少々お待ちください」
　莉鳥はメモをとるなりさっ、とオーダーを伝えに行ってしまった。そっけない態度に思わずため息を吐くが、すぐに「どうぞ」とクッキーを持ってきて、また莉鳥はすぐに離れようとする。
「その恰好……なんか、海の家のバイトみたいだな」
　つい出た言葉。雅樹は「何バカなこと言ってんだ俺は」とすぐさま自分に突っ込みを内心で入れた。
「……部で決めた格好なの」
　莉鳥はそれだけ言って奥に引っ込む。そっけない、冷たい、つれない態度の莉鳥。だがそれには理由があった。
（何故、雅樹が……？！）
　実は、内心動揺しているのだがそれを悟られまいとしてよけいに塩対応になっていたようだ。そんな事情だとしらず、「大丈夫に～？」と侑が莉鳥に声をかける。彼女に「大丈夫」と返した莉鳥は、別のお客さんにホットドッグを持っていくのだった。

　なんか望月の呻きが聞こえたような気がしたが、それはさておき。
　雅樹は侑が持ってきたサンドウィッチをもくもくと食べながら、なんとなく莉鳥を目で追っていた。彼女は、どこかの中学校の制服を着た少女と何か話しているようだった。

「実は、陸上を高校になったら始めようと思いまして……」
　寝子高に進学したいらしい彼女は、部活の事で相談したかったらしい。莉鳥は僅かにほほ笑み、考えたうえで語る。
「トレーニングとかで悩んだら、先輩や顧問の先生に相談する。それだけでも違うし、高校から陸上を始めたという人は結構いるから、体験談とか聞いてみてはどうかしら？　高校からはじめても、十分楽しめると私は思うわ」
　莉鳥の言葉に少女はお礼を言っていた。

　そんな彼女の姿を見ているうちに、コーヒーを飲み干していた雅樹。
「俺……なにやってんだろうな……？」
　なんだか、口に残ったコーヒーの味が、妙に苦く感じたひと時だった。

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