【寝子祭2nd】陸上部、出店！ ―『カフェ・アスリート』―｜リアクション

【寝子祭2nd】陸上部、出店！ ―『カフェ・アスリート』―

後編：『カフェ・アスリート』で一休みを……。

　しばしおしゃべりに興じていたはずの三年生、宇佐見望月。
　だが、午後に入った今、彼は――調理班にてなぜか奮闘していた。
（どうしてこうなったんだよ……俺様？！）
　我に返り、思わず険しい顔つきになった望月に、１年生が「先輩、ホットサンド追加です」と申し訳なさそうにオーダーを伝える。
「何で俺様今年も厨房切り盛りしてんのよ～～～～っ？！」
イヤーン！！　とギャグマンガなら目の幅の涙が流れていそうな顔になる望月。そして、その外では「そんな予感がしていたのよね」と生暖かい眼差しを向ける椎井莉鳥の姿が。

　――それは、一時間前に遡る。

「はぁ、拓郎ちゃん、来年はこうなるからな、覚悟しとけよ」
「むしろ、そうならないように勉強もがんばっておこうな？」
　ドリンクを飲み干し机に突っ伏した望月の言葉に、桐野正也が冷静にツッコミ「正也ちゃんヒデェ！」と呻く望月。
　これには話を聞いていた志波拓郎もさすがに「うーん……」と微妙な表情を浮かべていた。
「確かに成績は一部赤点うろちょろしてっけど、正也ちゃんだって試験勉強苦戦してんじゃーん」
「確かにそうだけど、そこは要領よくだな」
　望月のつっこみに正也は遠い目で答えをはぐらかそうとするも、望月は続ける。
「俺様だって、論文指導してくれてるこーちゃん先生の面子丸つぶれにならないよーに頑張ってるってのも考えて言ってくれよな？」
　ちなみに、そのこーちゃん先生こと浅井幸太は別の用事でそこに居なかったが、その言葉を聞いたらきっと「がんばれ」と応援してくれることだろう。
　一通りぐだぐだ言った望月だが、注文したメニューが届き、ホットドッグを食べつつ色々と見渡す。
（入口の看板、去年俺達が作ったやつ再利用したんだこれ）
　それを見ていたら、去年のことを思い出し、懐かしくなる。
「そういえばさぁ、去年は去年でダイエットメニューハケすぎてエライ目にあったよな」
「……すまん、忙しかったから……」
　望月がため息交じりに笑えば、正也が謝る。「そっか、正也ちゃんはお客チャレンジ担当だったか」と思い出したところで拓郎に「今年って余裕ある？」など問い……返答内容から表情が消えかける。
「そういえば、さ。俺様秘伝のレシピはどこ行った？　看板と一緒にドリンクのアンチョコまでセットで入れといたんだけど……」
「それが……紛失していました」
「へ？」
　拓郎の言葉に、望月は今度こそ表情が無になった。そして……裏方に消える。ここまでで３秒もない。
「ちょ、望月？！」
　おもわず止めようとする正也だが、残像しか残っていない、と錯覚させるほどだ。望月は裏方に消えると油性ペンを持ちだし、段ボールの切れ端に記憶していたものをすらすらと書き記していった。
「んあー！　って、去年のアンチョコもコレだから捨てられたのかもしんねぇ！？　とりあえず、ドリンクはコレで行けっからっ？！」
「わっ、わかりましたにーっ！」
　気迫に負けた七音侑が無意識に敬礼してメモを受け取り、調理班に持っていく。その後ろで材料を確認する望月はぶつぶつと何かを呟き、小さく頷く。
「後は飯の方……今年はサラダチキンとカット野菜か。よし、チーズを入れてホットサンドメーカーでやると低脂肪メニューになるかな。そしてマスタードマヨぬってから具を……」
　と調理班に指示飛ばし、自分も手洗いをして用意されたエプロンとバンダナ（気を利かせた侑が予備を貸した）を身に着け、戦場という名の調理場に向かった。

「……あー……」
　正也は、そんな望月の背中を、黙って見送るしかなかった。そしてメニューにホットサンドが追加されることになった……。

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