誰か、あそぼうよー！｜リアクション

誰か、あそぼうよー！

【親子で大試食会】
　湊弥と美姫は大観覧車を降りた後、悠美を方々に連れていった。
　親子3人で遊べることが嬉しいのか、悠美はどこにいっても子供らしく全力で遊んだ。
　それにつきあっていれば、当然、湊弥と美姫も体力を使い、お腹も減ってくる。
「そろそろお昼にしましょうか」
　と、美姫と湊弥がやってきたのは、大試食会の会場。
　試食会は大盛況で、うっかりしていると悠美を見失ってしまいそうなほどの混雑ぶりだった。
「悠美、はぐれないよう手を繋ぐべ。美味しいものに目移りしちゃいそうなんだ……俺が」
　冗談まじりにそう言いつつ、娘の名前を呼び、小さな手を握りしめる。
（……名前さ呼ぶの、むず痒いな。自分の家族がいる将来を想像してしまって）
　家族連れも多かったせいか、不意にそんな気持ちが芽生えてきて湊弥は落ち着きなくあたりを見まわし、手近な試食係に声をかけた。
「お、獲りたての魚の料理だってさ。俺は好きだけど、二人もどうだい？」
「悠美、お魚好き？」
「好き！」
　ということで、3人で獲れたての魚料理を堪能することにした。
　食べながら、好きなママの料理などの話をしていると話題が悠美の名前の由来に及んだ。
「悠美の「美」はね、ママの「美」からとったんだってパパが言ってた！」
　悠美の言葉に、美姫は驚くと同時にとても嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうなんだ。ママの美姫の姫って字もね、実はママのママが、女の子が生まれたら絶対これだって付けてくれたみたい」
　美姫は悠美の髪を撫でながら、そう昔を懐かしむように娘に語り掛ける。
（へぇ。そうだったのか……。古苗木さんの名前には素敵な由来があるんだな……）
　湊弥はその美姫の名前の由来にひそかに感嘆の吐息を漏らしていた。
　と、そのとき。
「あ、そういえば、パパはどうしてママのことを古苗木さんって呼ぶの？」
「え？」
　悠美は、不意に、とても核心的な質問を湊弥に投げかけてきた。
「……」
　それに、美姫もちらっと答えを待つような視線を送ってくる。
（こ、これは、もしかすると重大な質問だべか……？）
　にわかに緊張しつつ、湊弥はコホンと一つ空咳を打つと――。
「今はまだ古苗木でもあるんだよ。でも、折角の素敵な名前だし、俺も美姫さんって呼んだ方がいいべかな？」
　と、美姫の方をちらと見て言った。
「……っ」
　美姫は不意に名前を呼ばれて、どきりとしたように瞳を震わせた。
（あ、やっぱりちょっと早過ぎただべか……）
　しばし、見つめ合うものの、次の言葉が出てこない――とそのとき。
「あー、風船が浮いてるー。ママのお風呂で浮いてるママのお胸みたーい！」
　きゃっきゃと悠美がいつになくはしゃいだ声で風船を指さして叫んだ。
「……っ！？　悠美ちゃん、どうしてママのお胸がお風呂で浮くのを知ってるのかなーー！？」
　美姫が悠美に慌てて訊ねるが、悠美は笑って答えない。
「じゃ、じゃあ、そろそろ行くべかっ……！」
　周囲の人の視線を憚り、湊弥も慌てて席を立った。
（……そうか。浮くべか）
　道すがら、湊弥は思わず想像してしまったその光景を頭から追い払うのに難儀したという。

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