誰か、あそぼうよー！｜リアクション

誰か、あそぼうよー！

【吉住志桜里と秘密のガス抜き】
　その日、吉住志桜里は日頃の疲れを癒すために、寝子島温泉の湯に浸かっていた。
（ふぅっ。癒されますね……）
　志桜里は、一見、おしとやかそうに見えるものの、その内側には非常に強い闘争心を秘めている。
　日頃、できるだけ柔和な表情と佇まいを崩さないように自分を戒めているために、こうして一人で息を吐ける瞬間は至福のひとときだ。
　ずっとこのまま湯に浸かっていたい、そんな気持ちになりかけたときだった。
「おや、久しぶりだね、パンT」
「……っ！？」
　聞き覚えのある少女の声に、志桜里は柔和に細めていた目をカッと肉食恐竜のように見開いた。
「久しぶりなんて仲じゃないわ。あとパンTの方は禁句って言わなかった？」
　次の瞬間には、志桜里の右手が声の主の頭部にアイアンクローを決めている。
「……痛い痛い。自慢のアイアンクローは健在なようだね。」
　志桜里に頭を掴まれた少女は、よほど頑丈なのか、痛みに顔をしかめるどころか、口元に笑みさえ浮かべている。
　少女の名は――雨梨栖　芹香。
　現在は不良のたまり場として呼び声高い「マタ工」に籍をおいているいわゆる不良高校生である。
　芹香は、志桜里にとって、中学以来の宿敵にして悪友である。
　志桜里には、いくつかのあだ名があるが、じつはそのほとんどの名づけの親がこの芹香であることを知る人はあまりいない。
　もともと頑丈な身体をしていた芹香は、もれいびになり、ろっこんの力を得ることで輪をかけて頑丈になった。
（喧嘩は弱いんですが、いかんせん、ろっこんで傷を癒してしまうために負けることもない。厄介な相手です）
「パンT、ここは温泉だよ？　いい加減に手を放してくれない？　それともここで今すぐおっぱじめてもいいのかな？」
「もう一度その名で呼んだら、このまま頭蓋を砕くわよ？　でも、そうね。ここは温泉。というわけで、TPOを弁えて、長風呂勝負というのはどう？　先にのぼせた方が負け。負けた相手は何でも相手の言うことを聞くの」
　一瞬、芹香の表情が固まった。
　というのは、彼女の入浴時間は、烏の行水の極みとも言うべき短さであったからだ。
　無論、志桜里はそれを知ったうえでこの勝負をけしかけている。
「長風呂勝負？　天下の吉住志桜里様ともあろうお方がそんな軟弱な――」
「――逃げるの？」
　畳みかけるように、志桜里は言う。
　安い挑発ではあったが、それが芹香には何よりも効果的であることを志桜里は知っていた。
「……面白い。その喧嘩買ったよ」
　かくして、二人の長風呂勝負は始まった。

　数分後。
「……さすがに弱すぎやしませんかね？」
　すでに半分気を失っている芹香の首根っこを掴みながら、志桜里は彼女に適当に服を着せて、ひとけのない場所に連れだした。
　そして、ろっこん『ウチデノコブシ』を発動。
　最小の一寸サイズまで縮めた芹香を、志桜里は裸足でぐりぐりと踏みつける。
「ほら、何とか言ってみなさい。というか、天下のマタ工の不良が長風呂でのぼせるなんて情けないと思わないの？」
　好き放題に言いながら、志桜里はぐりぐりと踏みつけを継続する。
「ｆｊｓｃぁｗ！」
　小さくなった芹香がぴーぴー叫んでいるが、小さすぎて聞こえないし、そもそも志桜里は聞く耳持たない。
　だって、これは罰ゲームなのだから。
（……ふふ。なんだか、楽しくなってきました）
　口元に少し危険な笑みを浮かべながら、しばらく志桜里は楽しい罰ゲームの時間を続けるのであった。

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