●●●静かなる決闘、熱き想いに●●●

　弓を射る音が空しく空を切り、ドンッと重たい音がするも、当たらない。
　レオンが操るアタランテーは軽やかに移動し、相手の攻撃範囲内に入ってもおもちゃのビルに隠れる。
　おもちゃの道路を駆け、背後を取るようにアタランテーは弓を射る。

「甘いよっ！」

　ダンスをするように、それでいて重厚な音を鳴らしながら回避行動をとるのは蒼が操るDiablo Azulだ。
　声をかけられて、対戦を二つ返事で受けた蒼はスマホを操作して双肩のキャノン砲を放つ。
　今までの打ち合いから段差のある逃げ場を確保していたアタランテーは飛ぶように回避する。

　庭付き一軒家を模した模型を通り過ぎるアタランテーが矢を番えるとDiablo Azulの姿はない。
　野外戦の様相を呈するが建物の破壊が行えないため、自然と撃ち合う場所、隠れる場所が被ってくる。
　ある程度のパターンを蓄積して、それを崩そうとしたとき、お互いのスマホの画面に文字が現れる。

『Time Up! Draw!』

　時間切れ、引き分けの文字を見て無意識に止めていた蒼とレオンの呼吸が再開される。
　お互いに有効打がなかったわけではなく、攻撃が当てられなかった。
　次の人に場所を明け渡すためにDiablo Azulとアタランテーを回収する。

「…」
「…」

　お互いに消化不良と顔に書いてあるが、様々な思いが二人を駆け巡る。
　体力ゲージを減らせず終わりを告げられる、一種空しさ。
　勝ち筋、奥の手、相手の弱点、癖の隙の入り方…考えて出た結論は。

「あの、もう一度バトルしてもらえませんか？」
「いいね、私もそう考えてたところだったよ」

　椅子に座った隣同士、緊張気味の少女レオンに、にこやかに応える蒼。
　対戦順を待ち、もう一度対戦。
　お互いに呼吸を整え、開始の合図。

「当たって！」

　可愛らしい声でアタランテーに弓を射させるレオン。
　しかし初撃は先の対戦とほぼ同等。変わった軌道を把握しながら難なく回避するとDiablo Azul。
　移動の衝撃を殺さずに迂回をするかと思っていたレオンの顔色が変わる。

「さっきとは違うんだよ！」

　蒼が叫ぶように言うと、Diablo Azulはアタランテーまで直進してくる。
　先ほどはキャノン砲をメインに据えた戦い方、同じであればこのタイミングで撃ってきてもおかしくはない。

「くっ…ならっ！」

　レオンは身を隠しながらの高速移動と遠距離攻撃を主体としているためその戦法が変わることは少ない。
　想定外の行動であっても冷静に、落ち着いて、いつも通り…と考えを巡らせ、移動直後の一射。
　アタランテーのヘッド装備、アマゾネス・レオのセンサーを頼りに放ち、Diablo Azulに届く。

「ふっ！」

　届いた矢はDiablo Azulの体力ゲージを減らすが、速度までは落とせず突貫。
　同じ程度に下がろうとしたアタランテーだが、ビルとお店屋さんの間が微妙に通れず、足踏みをしてしまう。
　方向転換をしたアタランテーは別のビルの隙間に入ろうとするが。

「もらったァ！」

　いつの間にかDiablo Azulが突き出していたレーザーソードが飛来するかの如くアタランテーを切り裂く。
　慌ててアタランテーを加速させて追撃を逃れるが、体力ゲージはほとんど残っていない。

「マズったな…」

　思わずそう呟いてしまうレオン。
　アタランテーに牽制攻撃をさせつつ、勝機が薄くなっていることを感じる。
　しかし、そのまま終わるレオンとアタランテーではない。

　対して蒼も浮かれている訳ではなかった。
　体力ゲージの減り具合からして、あと何度か弓矢を受けてしまえば逆転される。
　十二分に取られた距離から放たれる弓矢を見て、突貫する戦いはもう通用しないだろうとあたりをつける。

「逃げるのも面白みがないね」

　ドローになったときの打ち合いから、逃げに徹すれば時間切れの勝利は濃厚。
　試合としてはそれが正しいが、楽しむためにはもっともっと、攻めが必要。
　そう思えば蒼の行動は早い。

　前の対戦でおもちゃの位置がズレた、ビルとビルの間を縫うように駆け抜ける。
　脇を抜ける弓矢をギリギリで回避しつつ、前の戦いとは違うステージの理解を深めていく。
　しかし。

「あれっ！？」

　アタランテーを追っていたDiablo Azulにダメージが入る。
　今までの矢の軌道からは予測できなかった箇所からの攻撃。
　分かったのはお互いのカプセルギアが通れないほどの隙間からの一射であった。
　悔しそうに唸る蒼だが、Diablo Azulを急発進させ、アタランテーへと迫る。

　奇襲が成功したアタランテーは軽やかな足取りのような雰囲気で攻撃しやすい次のポイントに移動していく。
　相手の行動が単調であればあるほど、その予測はしやすいが。

「っ、当たらない…！」

　奇襲から警戒度が上昇したのか、迫るDiablo Azulに何度も射るもことごとく回避されてしまう。
　安全マージンを取るため、アタランテーは背を向けて走り出す。

　先ほどのような地の利を活かさねばDiablo Azulがアタランテーに追いつくことはない。
　だが諦めずに双肩のキャノン砲を放ち、ある程度行く道を誘導していく。
　そうしてアタランテーが着いたのは建物自体が観音開きになるおもちゃの二軒長屋の屋上。

　アタランテーがやること自体は変わらず、矢を番え、射る。
　避け損ねた矢に体力ゲージを減らされたDiablo Azulもそれに応えるかのように双肩のキャノン砲を放つ。
　先ほどのお互いが攻守の取れているような戦いではなく、情熱のぶつかり合い。

「これで、終わり！！！」

　レオンが叫ぶかのようにアタランテーへの入力を完了させる。

「さーせーるーかー！」

　蒼もいくつかのアクションをDiablo Azulへと入力を完了させる。

　放たれるアタランテーのLアーム、アポロンからの矢。
　見計らってDiablo AzulのLアーム、Rアームのキャノン砲がパージ。

　矢に撃ち抜かれるパージされたキャノン砲。
　Diablo Azulが取り出したビームライフルをアタランテーに向ける。

『You Win！』

　AIによる勝利の声が響く。
　戦場には引き金を引くことなく立ち尽くすDiablo Azul。
　次の矢すら番えていたアタランテーの体力ゲージが残っていた。

　しばしの沈黙を経て、観戦していた人たちから少なくない拍手が巻き起こる。
　ああ、終わったんだったと思うくらいお互いに没頭していた時間。
　レオンと蒼がお互いに握手を求め、もう一度、と言うのにはそう時間がかからなかったのだとか。