そろそろ、冬支度。｜リアクション

そろそろ、冬支度。

　　　エピローグ

　一週間後、寝子島は今年最低の気温を記録した。

「ううっ、さむ……」
　のそのそと起き上がった遠海は、何を着ようか、と思った。カーディガンに外出時はダッフルコート、あったかインナーはまだいいかな、とそこまで考えたところでハッと布団を跳ね飛ばした。
「……服、買うの忘れた！！」
　とっくにセールは終わっている。絶望に、遠海は再び布団へと潜り込んだ。

「コッタツムリ♪　コッタツムリ♪　アカリは明日からコッタツムリ♪」
　昨日受け取ったこたつを、アカリは四苦八苦しながら組み立てた。
「早速使えるなんて、ラッキーデース！」
　買っておいた半纏を羽織り、いそいそとこたつに入る。
「これで冬の三種の神器まであと一歩デース。半纏に炬燵に蜜柑、これが冬の三種の神器だとグランマが言ってマーシタ。アカリはもうすぐ冬の神さまに進化するのデース」
　実家から送ってきた蜜柑を、寮生が配りに来るまで、あと五分とちょっと。

「ああ……こたつには魔力が宿っている……」
　ほう、と息を吐き、まゆらはこたつに頬を乗せた。天板のひんやりとした感触が心地よい。
　窓がカタカタと揺れている。今度は、隙間風用のテープを買ってくる必要がありそうだ。結露用の吸水シートを貼ったせいで、室内は薄暗かった。
　新しいこたつ布団は、まゆらの身体にフィットして、それでいて重くない。じわじわと体中に温みが広がっていくようだ。
「出たくない……というか、このまま寝てしまいたい……」
　こたつには、魔力が宿っている。
　そのせいで、もうすぐバイトに出かける時間だというのに指一本動かせないまゆらであった。

「うっ、寒ぃ……」
　猫鳴館を出た雅樹は首を竦めた。予報の気温より、体感温度が低い気がする。海に囲まれているからだろうか。
　買ったばかりのMA-１ジャケットに百円ショップのマフラーを巻き、スニーカーの紐を結び直す。目的地は図書館である。近頃の休日は、もっぱら図書館と猫鳴館の往復に時間を費やしている。
　暖かいし静かだし、勉強にはもってこいなのだ。何より、
　――椎井に会わずに済む。
　このまま、会わずに卒業できたら、とおよそ無理なことを考えながら、雅樹は歩き出した。

　莉鳥は、自分の部屋にいた。
　買ったばかりの長袖Ｔシャツにフリースのパーカー――図らずも、巧と色違いのお揃いになってしまった――を羽織り、ボーイフレンドデニムを穿く。いつもと違ってスキニーでないのは、下にあったかインナーを着るためだ。
　それからダッフルコートに手を伸ばし――やめた。
　日曜の今日、雅樹がどこにいるか莉鳥は知っている。会おうと思えば、会える。
　だが会ったとき、雅樹がどんな態度を取るか、分からなかった。歓迎はされないだろう。あからさまに迷惑そうな態度は取るまい。困った顔をするかもしれない。どれも嫌だった。
　それより何より、
　――何で、私が。
　自分から会いに行かねばならないのか。
　パーカーを投げ捨て、莉鳥はベッドに身体を投げ出した。

　寝子島はこれから、本格的な冬を迎えようとしていた――。

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あとがき

担当マスター：泉楽
ファンレターはマスターページから！

大変、お待たせしました。「そろそろ、冬支度」リアクションをお届けします。
執筆中に本当に冬へと突入してしまいましたが、リアル冬支度はおすみでしょうか？
私はどうにか、セーターを出し、ダウンジャケットやコート、マフラー、手袋を出し、毛布を出し、ストーブとエアコンの掃除をして、飼い猫のワクチン接種もすませました。残るは年賀状だけです！

次のガイドは来年になってしまいますが、もしよかったら、またご参加ください。
それでは皆様、お体に気を付けて、よいお年をお迎えください（ちょっと早いけど）。

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