そろそろ、冬支度。｜リアクション

そろそろ、冬支度。

　　　５

　寝子島電鉄・星ヶ丘駅。始発でもあり、終点でもあるこの駅の地区は、高級リゾートエリアとしても有名だ。
　落合まゆらは、バイト先の「CamicieＸrosse!!」へ向かう前に、寝具フェアに寄ることにした。
　もっとも、毛布やら上着やらは去年の物を使うつもりだから、買う必要はない。
　しかし、春から住んでいる木造アパートは築四十年を越え、隙間風が入り込む。当然、結露も凄まじいことが予想できた。
　窓に防止スプレーと、結露が起きることを前提として、吸収タイプのシート、それに隙間風防止のカーテンは必要そうだ――と考えて、まゆらは嘆息した。
　既に面倒くさい。
　そんな時、ねこったーで得た情報が星ヶ丘の「あったか寝具フェア」だった。「ぬくぬくすべすべ高級羽毛布団をお安くゲットするチャンス！」の煽り文句に、心が浮き立つ。
「うわぁ……」
　店内に足を踏み入れるや、まゆらは感嘆の声を漏らした。
「高級羽毛布団」を売りにするだけあって、並んでいる商品はどれも、普段まゆらが目にする値札と桁が違う。
「まずい……これ、買える……わよね……？」
　回れ右したくなったが、勇気を奮い立たせ、まゆらは店の中を進むことにした。
　まゆらの目的は、寝具ではない。こたつ布団だ。こたつ自体は家から持ってきた。――正確には、両親がシングル用を買ってくれたのだ。
　そのこたつに合う布団を、それも高級品を、とまゆらは考えた。こたつ布団は大事だ。冬の休日ともなれば、一日の大半をそこで過ごすことになる。質もそうだが、デザインが気に入らなければ、ストレスになってしまう。
　とはいえ、さすが高級品を銘打つだけあって、どれもデザインは素晴らしかった。昔ながらの花柄から、シンプルな一色の物まで様々である。
　まゆらは頭の中の通帳残高と相談しながら、こたつ布団を見て回った。気に入ったものがなければやめよう、と思っていたのだが、――出会ってしまった。
　運命の一枚に。
「これ……気持ちい～い」
　頬ずりしながら、思わず顔がにやける。
　ふかふかなだけではない。エジプト産綿を使った生地は、とろんとした滑らかな肌触りだ。これに入ったら、さぞかし気持ちがいいだろうと思う。
　表は黒だが、光沢感が美しいグラデーションを生み出している。
　シンプルだが、高級感漂う一枚だ。
　値札を見て、覚悟はしていたがため息をつく。
「でも……」
　そのために、買い物に来たのだ。
　まゆらは決意を固めて、レジへと向かった。

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