【星幽塔】第一階層　親しき者への鎮魂歌｜リアクション

【星幽塔】第一階層　親しき者への鎮魂歌

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　マードックの実験場らしき小屋をめちゃくちゃに破壊し、そのまま墓地へと歩みを進めながらティオレは思う。
　呪いで何百年も生かされている自分は、ある意味ゾンビに近い存在かもしれない。
　違うのは、ゾンビはただただ本能のみで動いているのに対し、ティオレは明確に意思を持っている、という点だ。
　つまり、死にたくても死ねない。
　……だから、冒険者マードックに対して感じるこの胸糞の悪さは。
　自分が何をやらかしたのか知ることもなく、ゾンビ化したことに対するものなのだろう。
　――そんな胸糞の悪い奴は、あたしが始末してやるよ。
　そう心に決めた彼女の瞳が、杖を持った冒険者のゾンビ――マードックを捉えたのは、墓地へ足を踏み入れてすぐのことだった。
　ロングソードを構え、ティオレは駆ける。
　マードックが杖を振るう。氷の矢を幾つも形成し、射出。
　横飛にいなし、剣の峰で受け流し、切り払った一本を掴んで投げ返す。
　マードックは氷壁を展開、矢を阻むがその隙に肉薄するティオレ。
　だが不意に、足を何者かが引っぱる感覚。
　棺の掘り返された地面から手を伸ばしたゾンビが、足を掴んでいた。
　ロングソードで首を撥ねるより、マードックが氷雪を帯びた嵐を放つほうが一瞬速い。
　
　赤光を纏う黒曜の刃――サキリのイツトリが、氷雪の嵐を弾き返した。
　これはただの黒曜石のナイフではない。生贄の短剣をモチーフとしたソレは、超常の攻撃を弾く障壁を作り出す力を有していた。
「無事かい」
「おかげ様でね。今のは助かった」
「フォルカは」
「パウダーの残り探しに行ったよ」
　短いやりとりの後、サキリとティオレは左右に分かれて駆け出す。
「穴蔵に他にもゾンビが居るかもしれない、気をつけな！」
「わかった！」
　散開する二人に対し、マードックは扇状に氷の矢を射出。
　身を屈め、脇へ逸れ、跳び越え、切り払って踏み込むティオレ。
　サキリはギリギリ、目の前数センチまで引きつけてから『斬空赤刃』。蛇腹剣の間合いまで飛び込み、
「お前のせいで村人達はとんだ巻き添えだよ。――覚悟しろ！」
　鞭形態のまま振り抜く。
　咄嗟に身を引いたマードックの、杖を持っていない左手が宙を舞った。
　マードックが杖を逆袈裟に振り上げ、ノコ刃のような氷がサキリへと走る。
　再度の転移でこれをかわせば、その足元を狙いすまして凍てさせる。
　すかさず、凍結面からそのまま放たれる氷柱の一撃。
　横面から切り込んだティオレが、そいつをぶった切った。
　マードックから凄まじい冷気が放たれ、周囲の地面が一気に凍てついていく。
　凍てついた端から迫るのは、突き立つ無数の氷の牙。
　ティオレは、あえて飛び込んだ。
　マードックが作り出した氷原の上をスライディングの要領で、氷の牙を蹴り砕いて駆け抜ける。
　破片が肌を引き裂くが、そんなもの大した傷でも痛みでもない。
　マードックが杖を跳ね上げ、噴火の如く氷の槍を突き上げる。
　ティオレはその寸前にロングソードを突き立てて急ブレーキ、そのまま突き立てたロングソードごと氷の槍に持ち上げられ、その勢いでもってマードック目がけて飛ぶ。
　対して、サキリは空間転移で逆サイドへ跳んでいた。
　かたやブリザードを放出するマードック。
　イツトリのバリアを展開して踏み込み、サキリはそのまま氷原を滑走――そして、『斬空赤刃』。
　
　ティオレの一閃が、マードックを袈裟懸けに斬り裂く。
　赤光化した蛇腹剣と心臓刳りの黒曜刃の二振りが、崩れ落ちていくその身体を完膚なきまでに切り刻んだ。

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