時限爆弾パニック｜リアクション

時限爆弾パニック

●全力回避

　晴れた空の下、虚栄心はサイクリングを楽しんでいた。乗っているのは新しく買った電動自転車だ。
　じつは以前に、自転車レースへ参加するために買ったクロスバイクを持っていた。ただこのクロスバイクは実際には電動自転車で、外見からでは電動自転車だと分からない特別仕様の代物だった。
　本来はレースでズルをするために買ったのだが、結果は３位に入ることも叶わず、のちにバレないように処分してしまった。
　それはさておき、心は人がまばらに歩く道を行く。ふと、ガシャンという音と同時に、かごに何か入った感覚があった。

（なにか落ちてきたのかしら？）

　そんなことを思ってカゴを見ると、爆弾が入っていた。思わぬ事態に急ブレーキをかける。それは映画やドラマに出てくるような、いかにも時限爆弾という風体をしていた。そしてパネルには『5:00』と表示されている。
　正しくは表示されていた、だろうか。心が確認した途端、カウントダウンが始まった。

（なぜ爆弾が……！？）

　混乱しつつ、冷静に考えた末、心はその爆弾を道路に投げ捨てた。
　振り返ることもせず、電動アシストのパワーを最大にしてペダルを踏み込む。

（さっさと逃げるわよ！　この辺りの住人が爆死しても私には関係ないもんね！）

　後方では誰かが発見したのか、人々のざわめきが聞こえる。そんなことはお構いなしに、心はひたすら自転車を漕いだ。そうして数分後、爆弾から激しい閃光と爆発音が放たれた。咄嗟に逃げた心にも聞こえるほど、大きな音だった。

（ふう……これで一安心）

　いちど止まって息を整えると、心は安堵する。逃げる途中で何台かパトカーとすれ違った。おそらく先ほどの場所へ向かっていったのだろう。だが、もう他人事。そう思い、何も無かったかのように再び走り出す。
　しかし、少し先で警察が待ち構えていた。どうやら検問を行っているようだ。警察官と思われる男性が心に近づいてくる。

「すみません。先ほど何かが爆発したようで、検問をしてるんです」
「そ、そうなんですか」
「ええ。さいわい怪我人はいなかったのですが、ちょっとした騒ぎでして」
「大変ですね……」
「……その自転車、少々確認してもよろしいですか？」
「え？　あ、はい」

　そう言われて、心は自転車を降りた。
　男性は自転車を隅々まで確認すると、無線で誰かと話をし始めた。会話が終わると、彼は心のほうを見た。

「少しお話を伺いたいのですが、よろしいですか？」

　先ほどと違って、心に何らかの疑いを持った目だ。

（もしかして、爆弾を作った犯人と思われてる……？）

「あくまで任意ですが、ご協力頂けると助かります」

（任意とか言ってるけど、他にも警官がいるし、応じないと帰してもらえないパターンだわコレ……）
（無理に抜けようとして警官ともつれたら公務執行妨害とか何とか理由つけて連れていかれるのがオチ）
（あるいは、ろっこんで強行突破……でも後で余計に面倒くさいことになりそうだし……）

　表面上、何気なく応対しながら心は精一杯頭を働かせる。
　結局応じるしかないという結論に達し、警官に連れていかれた。

　どうやら現場から全力で逃げるところを複数人に目撃されていて、自転車の特徴が一致していたのが理由だったらしい。
　とはいえ、爆弾は神魂の影響なので心は直接関わっていない。それに実物も残っていないので、何の証拠もない。
　警察とのやりとりはしばらく続き、解放されるまで半日もかかった。

（散々な一日だったわ……）

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