時限爆弾パニック｜リアクション

時限爆弾パニック

●解決策

　旅鴉月詠は今日もアトリエで創作を行う。
　夜空から月の明かりが降り注ぐ静かな時間。区切りのいいところで一旦席を立つ。それから菓子や飲み物を持ってアトリエに戻る。これらとともに、ささやかな休息を取ろうと思ったら、先ほど月詠が居た場所に箱が鎮座していた。

（……？）

　月詠は持ってきたものを置いて、その箱をよく観察する。
　カラフルな星がいくつも流れ、ボールに乗った象や綱渡りする人が描かれている。色だけでなく内容も、まるで派手なサーカスのようだった。
　次はふたに手をかけて開けてみる。
　中身は切ってみろと言わんばかりに色とりどりの配線が中央のタイマーに繋がっている。そしてタイマーのカウントダウンが始まった。

（なるほど。おそらくゼロになったら何か起こるだろう。だが私は焦らない）

　爆弾らしき存在に対して、まったく動揺しない。
　目の前にコード付きの爆弾があれば、まず浮かぶのはそれを切ることだろう。しかし月詠は違った。

（切るばかりが解決法だろうか。他にもあるだろう。考える時間はまだある）

　タイマーを確認して、月詠は解決する方法を考える。そしてメモ帳を開くと簡単な図形を描いた。
　これを使って、ろっこん『絵空事』を発動することで触れたものを絵として封じようと考えたのだ。
　封印している間はタイマーも止まるだろう。その時間を利用してじっくりと解決策を練ることができる。

（あとは何処に持っていくかだ……おや？）

　爆弾にメモ帳を触れさせるが、なぜか封印できない。

（ふむ……なぜだ。原因は分からないが、焦ることはない）

　数秒考え込むと、箱を持ってルーフバルコニー『魔女の座』へ出る。その片隅に箱を置くと、蓋をしてそっと離れる。そしてしばし待つ。

（おそらく、そろそろだろう）

　タイマーがもうすぐゼロになるはずだ。そう思いながら観察していると、その時は訪れた。

　勢いよく蓋が開くと、彩りに満ちた輝きとともに花火のようなクラッカーが打ち鳴らされる。
　そこにトランペットの軽快で派手な演奏が乗る。なおもクラッカーは鳴り止まない。２つの音色をBGMに台座がせりあがる。そこには人形の楽団が椅子に座っていて、台座があがりきると演奏を始めた。
　それにあわせるようにクラウンが芸を披露し、スターはダンスを踊る。かと思えば、どこからか現れた黒マントが鳩を飛ばし、それを猫が追いかけていった。どたばたな舞台を止めようと奔走するピエロ。大げさに頭を抱えて、大変さをアピールしている。
　やがて演奏もクライマックスへ。盛り上がりも最高潮。スターが大きく体を動かすと、演奏の終わりと同時にビシッとポーズを決めた。そして紙ふぶきが鮮やかに終わりを告げる。

　舞台が終わりを迎えると、拍手と歓声が広がる。月詠も思わず拍手を送る。『ご鑑賞ありがとうございました』の垂れ幕が舞台上部から降りたかと思うと、紙ふぶきが箱のなかに吸い込まれていった。
　台座も下がっていき、スターや演奏者たちは手を振っている。
　飛び出したものが全て収まると、蓋が閉まり、箱は勢いよくジャンプしてどこか遠くへ飛んでいった。おそらく島の外だろう。

「……人類ポカン計画と言うべきか」

　事の一部始終を見ていた月詠は、ふとそんな言葉を呟いた。
　しかし箱の中身を確認したことで、ろっこんが発動しなかった理由を再考する。

（おそらく箱か、箱のなかが生物だったから目詰まりで封印できなかったのだな）

　持ってきていたお菓子と飲み物を携えて腰掛ける。

「今度からくり時計やびっくり箱の構造を調べてみようかな」

　休憩を取りながら、月詠は今後のことを考えていた。

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