浜辺のマーメイド｜リアクション

浜辺のマーメイド

【３】判定

　夕方。
　三郎の部屋の前には、虚栄心が立っていた。
（万能で強力な能力は羨ましくて許せないから、インチキであってほしい）
　それが、彼女の三郎に対する正直な気持ちだった。
「この私が、化けの皮を剥がしてあげるわ！」
　呟いて、彼女はチャイムを鳴らす。
　出て来た三郎に、心は告げた。
「実は私も魔術師なんです。『大戦』のために、協力したくて、やって来ました」
「おまえは、どんな能力を持っているんだ？」
　問われて心は、用意して来た答えを返す。
「私は、魔術師とそうでない人を判別することができます。つまり、『大戦』のための仲間を集めることができるんです」
　それは、三郎の興味を引いたようだ。彼は、心に部屋に入るように言った。
　三郎は彼女を四畳半に通すと、六畳間にいる夏夜を呼ぶ。
　呼ばれてやって来た夏夜は、初対面を装って心と挨拶を交わした。
「さて。では、おまえの術を見せてもらおうか」
　三郎に言われて、心は手にしていたコンビニの袋から二リットルの水のペットボトルを取り出した。
「これを持って下さい」
　差し出すと、三郎はそれを手に取る。
　それへ心は続けた。
「私の能力は、水が入った容器を持って立っている人に向かって私が『ある言葉』を連呼することで発動します。容器を持った人が魔術師なら水が赤く染まります。染料を混ぜたみたいに。どこかにつかまったり寄りかかったりせずに、直立していないとダメなので、気をつけて下さい。容器を床につけてもダメなので、落とさないようにしっかり持って下さいね」
　うなずいて、三郎はペットボトルを片手に持って真っ直ぐに立つ。
　心は彼に向かって、口を開いた。
「おまえはただの人間だおまえはただの人間だおまえはただの……」
　途端に、ろっこん『人間惨禍』が発動した。
　三郎は、筋力低下を起こして立っていることができなくなり、床にペットボトルを下ろすと座り込んでしまう。
　一方で、容器の中の水は赤く染まっていた。
（あらら……。本当に化けの皮が剥がれたわね。あなた、ただのひとじゃないの）
　それを見て、心は胸の内で満足げに呟いた。
　彼女のろっこんは、ひとにしか効かない。
　一方で、水が赤く染まるような効果はなかった。こちらは三郎の能力に違いない。
　つまり彼は、ひとだが、何かろっこん以外の能力を持っているということになる。
　心のろっこんについては、夏夜も事前に聞かされていた。
　なので、この結果に内心眉をひそめていた。
（では、彼の能力はなんだ？　『神魂の影響』なら、宿ったものの破壊で収まることが多い……が……）
　フツウを壊す存在や『悪魔』絡みなら厄介だ――と胸に呟く。
　ただ、はっきりしているのは、事の原因は三郎当人だということだ。
　彼女は、わざとよろけて、本の山にぶつかった。
「あ……。すみません、私……」
　言う間に本の山が、三郎の上に雪崩落ちる。
「うわっ……！」
「きゃっ……！　ごめんなさい……！」
　声を上げる三郎に、彼女は更に手が滑ったふりをして、ショルダーバックをふり回した。
　バッグの角が思い切り、三郎の頭にぶつかる。
　彼は声もなく昏倒した。
「恵御納先輩！」
　さすがに、心が声を上げる。
　それへ夏夜は言った。
「原因が三郎当人だとわかったんだ。一旦退却して、対処方法を考えるべきだろう」
「そ、そうね」
　心もうなずく。
　二人は、倒れた三郎をそのままに、部屋を出て行こうとした。
　その時だ。
　昏倒していたはずの三郎が、むくりと起き上がる。
　二人をふり返ったその目は、爛々と赤く燃えていた。

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