森の中の山姥｜リアクション

森の中の山姥

　作戦を考えるために借りていたお手洗いから戻ったアリサは首を傾げた。闇の貴公子イツキとシャイニングロード光と名乗った男女二人組は山姥に促されて中へと入ってきたのだ。どうやら、同じように迷い込んだらしい。
「今日はお客がたくさんだねぇ。そっちの二人は酒はいける口かい？」
「命の水か……。許されぬ禁忌とはいえ、どうしてもと言うのなら」
　すると光が樹を押し退けた。
「できれば、お酒以外の飲み物でお願いします！」
「元気だねぇ。それじゃ食べるものも用意するからねぇ」
　山姥は隣の部屋へと入って行った。
「あの、もしかして、寝子島から？」
　光が隣のアリサに声をかける。
「ええ。帰る方法を聞き出すつもりよ。とりあえず、みんなで酔わせましょ」
「話が分かる人でよかった～。これに任せてたら、話進まないし」
「むむ、我が盟友光よ、俺に任せたら話が進まないとはどういうことだ！？　くっ！　ならば貴様に任せるとするぞ！」
　と、山姥が戻ってきた。
「さぁ、今日は宴だよ」
　アリサの前には酒坏が、樹と光の前には冷茶が置かれた。そして広げられたのは漬物や煮物など。つまみになりそうな、味の濃い食べ物だった。
「それじゃ、あたしが。乾パーイ！」
　四つの器を重ね合わせ、小さな宴が始まった。
　アリサは酒坏の酒を、
「んく、んくっ……ぷはぁっ」
一気に飲み干す。
　隣を見ると、山姥も負けじと酒坏を空にしていた。
「おばあちゃんもなかなかいける口じゃない」
「ふふ、若者にはまだまだ負けないさ」
「ふむ。とりあえず老婆殿、命の水を注がせてもらおう」
「あ、じゃあ真境名さんには私が」
「ありがと」
　三人は目配せする。このまま雰囲気でドンドン飲ませて、山姥を酔わせなくてはならない。
「綺麗な白髪ですね、どうやって手入れしてるんですか？」
　光が質問すると、
「綺麗だって？　ふふふ」
　山姥は酒坏を傾け、一気に喉へ流し込んだ。
「これはねぇ、丁寧にすいて、椿の油をつけているのさ」
「ほう……。貴殿の高貴な美しさの秘密か」
「おや、やだねぇ」
　光がすかさず、山姥の酒坏に酒を注ぐ。
「ささ、もっと」
「おとと。溢れちまうよ」
　酒坏に口をつける山姥。アリサは山姥の酒坏に自分のそれを付けた。
「勝負よ、おばあちゃん。どっちが多く飲めるか」
「ほほ、やるかい？」
「ならばその神聖なる勝負、俺と光も参戦し」
　光は樹の口を押さえた。
「二人とも、頑張ってー！　スタート！」
　光の合図をもって、二人の飲み比べが始まった。
「何をする、我が盟友よ。命の水はまだ我々の扱えるものではないと理解している。しかし、我が新能力、禁忌の呪解にて命の水を浄化を行えば」
(こいつの言葉聞いてるとこっちの語彙力もバグってきそう！あ～～しっかりしろあたし！　酔いつぶれる前に切り出すのよ！）
　二人はすでに酒瓶をラッパ飲みしていた。
「くはっ！」
　酒瓶を床に置いて、アリサが一息吐く。
「降参しても良いわよ？　おばあちゃん？」
「遅れはとってないさ」
　飲み比べが中断したようだ。
「それにしても美味しいお酒。この森のわき水……とかで作ってるの？」
「いやいや、この森にわき水はないさ」
「ならば、川へ汲みに行くのだな。水面に映る姿は前世を表し」
「そういえば、この森の中ってなかなか深いですよね。出口とか無いんですか？　さっきぐるっと見てきたんですが、それらしき道が見当たらなくて。木が生い茂って見えないせいもあるのかもしれませんが……」
　すっかり顔を赤くした山姥は少し考えて、
「もちろん、あるさ。適当に、この酒を木にかければ、そこに出口が……ひっくっ」
そうして山姥は目を閉じて寝息を立て始めた。
　三人は視線を合わせた。
「二人とも行くわよっ」
　アリサの声に光ははっとした。
　アリサは酒瓶を手に小屋の戸を開け放って外へと飛び出る。光も続く。樹の襟を引っ張りながら続く。
「さらばだ、老婆殿。また会」
「会わなくていいから！　早く走って」
「なっ、待て、このっ」
　目を開けた酩酊状態の山姥がもたもたしている間にアリサが木に酒をかけると、その部分が暉輝いた。
　三人はその中へと飛び込む。
　気づけばそこは、寝子島のどこかだった。

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あとがき

担当マスター：高城ヒト
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山姥の世界……上手くおだてることで無事脱出することが出来たようですね！
意見が全員一致で団結できたといったところでしょうか。

それでは、ご参加ありがとうございました！

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