森の中の山姥｜リアクション

森の中の山姥

鈴虫の鳴く声にぼんやりと意識が戻ってきた。ひんやりとした空気に思わず体を震わす。
　真境名アリサは体を起こして辺りを見回した。そこは見覚えのない森の中だった。
　いつものタンクトップ姿で布団に入ったはずなのに、今は外出用の服装だ。靴も履いている。
「ここは？」
　ふと前方に光が見えた。月明かりで大分明るいが、それとはまた違った、人工的な光だ。
　そっと歩み寄ると、それは小さな小屋だった。中に人がいるのだろうか。小窓から中を覗く。すると、包丁を研ぐ老婆が裂けたような口を歪めていた。
「ひっひっ。さぁ、そろそろ罠にかかったネズミがくるはず」
　山姥、そんな言葉がぴったりだ。
　アリサはなんとなく状況を把握した。ネズミとは自分のことだろうと。
　あの山姥に聞けば、帰る方法がわかるだろうか。
　考えているうち、窓ががらがらと音を立てて開いた。
「おや、お嬢ちゃん、何してるんだい？」
　先程とはうってかわって、優しげな表情をする山姥。中へ入るように促された。
　小屋の中のテーブルには大量の酒瓶が置かれていた。どうやら山姥は酒好きらしい。
「酒でもどうだい？」
「！」
　どうやらアリサに酒を飲ませて潰し、喰う算段らしい。
(この勝負、乗ってやろうじゃない)

　折河樹と観月光は知らない森で目を覚ました。近くに明かりが灯る小屋を見つけ、中を覗いてみたのだが、
「ひっひっひっ、そろそろネズミが、来る頃だねぇ」
　山姥が包丁を研いでいるところだった。
　二人はその光景を数十秒見つめ、そっと窓の下に座り込んだ。
「いや、ていうか、ここどこ…！？なにあのおばあちゃん……超怖いし、この状況なんなの～超ありえないんだけど！」
「あの怪しげな老婆を見なかったことにして帰還ができればいいが、俺達には帰還するための情報がない」
　樹は腕を組んだ。少し考えて込んで、
我が盟友光よ、虎穴に入らざれば虎子を得ずだ、共にあの老婆を言いくるめて送還の儀の情報を取得するぞ」
「……仕方ない。そうでもしないと帰れないもんね」
「俺がおだてて、光が探る、この路線でいくとするか」
「お願いだから変なこと言わないでね……」
　光の心配をよそに、樹は躊躇いなくノックをする。
「はぁい」
　戸を開けて出てきたのは優しげな表情の老婆だった。先程の様子からして、演技だろうか。
「おやおや、まあまあ、若い子らがこんなところで」
「どうも、こんばんは、私達……」
　光が事情を説明しようとした時である。樹がこめかみに指を当てた。
「クハハハハ！俺を！　俺たちを！呼んだか！？」
「呼んでないって……」
「我が名は常闇よりいでし開闢の使徒樹！またの名を闇の貴公子イツキ！そして我が盟友、シャイニングロード光！　二人合わせて混沌の使徒だ！」
「あ～、え～と…この変なのが樹、あたしが光……です。スミマセン、言ってることわけわかんなかったでしょう………。あたしたち、道に迷っちゃって、とりあえず休める所を探してたんです。そしたら、この小屋の光が見えて」
「そうかい、そうかい。なら、中で休んでいきな」

このページにイラストを設定する