寝子島高校妖精事件｜リアクション

寝子島高校妖精事件

●イタズラと優しさ

「なんかいるよな、見間違いじゃないよな！？」

　志波武道は学校に来てから妙な存在を見かけていた。他の人によると、どうやらイタズラ好きな妖精が出没しているらしい。おそらくそれだろう。

（まぁ可愛らしいイタズラならいいんだけど）

　そう思いながら友人たちと他愛のない話で盛り上がる。
　そのとき。ふと鋭い風が武道の顔面を横切った。

「ん？　いま何か通ったか？　まぁいいや。ん？　どったのみんな？」

　周囲の目線が自分に集まっていることに気づいた。皆がなぜか武道の顔を見つめている。

「顔？　あれ、俺の眼鏡どこ！？」

　顔に触れると、つい先ほどまで掛けていたはずの眼鏡が消えている。伊達眼鏡なのですぐに気づかなかった。そこで先ほど自分の前を横切った風を思い出す。

「妖精の仕業か……これは被害状況を確認しとくかー……」

　これ自体は大した被害ではないが、念のため妖精の情報を集めることにした。

「はぁ……はぁ……これ１体じゃないっぽいな！？」

　目撃情報を集めていると、どうやら妖精が複数いるようだ。妖精が空を飛ぶことは自分の件で分かっていたので、上方を中心に探していた。そのため足元の注意が疎かになっており、濡れた床に気づかなかった。警戒せずに踏み込んだ床でバランスを崩す。

「あぶっ！」

　滑った右足をどうにか持ち上げて体勢を持ち直す。
　しかし、安心は束の間だった。足を下ろした先にはバナナの皮が設置されていた。まさかの二段構えである。

「なっ！？　いったぁ！？」

　これには流石に対処しきれず、ズテーンという擬音が聞こえそうなほど見事に転んだ。そのときどこからかクスクス笑う声が聞こえた気がした。武道はすぐに声のほうを向くと、確かに妖精の姿が見えた。しかし、またどこかへ飛んでいってしまった。

「……うん、妖精に『メッ！』って注意しなきゃだなコレ」

　武道は大事には至らなかったが、この様子だといつ怪我人がでてもおかしくない。
　それは避けたいので、ゆっくり起き上がると妖精探しを再開した。また他に妖精を探している人たちと情報を共有する。

（しかし……どうやって妖精をおびき寄せるか……）

　先ほどから探しているが、見つかる気配が無い。
　しかし、イタズラをするために、どこかでこちらの様子を窺っているはず。

（俺が弟にちょっかい出す感じに似てるか？　それなら……）

　武道は大きく息を吸うと、大げさに声を張り上げた。

「どこォー！　どこにいるんだよォー！」

　走る動きも慌てている感じを出しながら、必死に妖精を探すフリをする。

（イタズラ好きなら、なにかしらアクションを起こすかな？）

　必死な雰囲気を装いつつ、冷静に周囲の様子を確認する。すると１体の妖精が武道に近づいてくるのを感じた。

（これは……生徒会の腕章狙いか？）

　妖精がさらに近づくのを待ち、ここだというタイミングで手刀で突くと、ろっこん『スイ・マー』を発動させる。妖精は自分になにが起こったか分からず、混乱しているようだ。その隙に武道は妖精を捕まえた。

「君か？　怪我させるようなことをしたのは？」

　武道は険しい顔で冷たく叱る。妖精は逃げるのを諦めて、沈んだ顔を浮かべている。
　おそらく反省しているんだろうと思い、武道はすぐさま表情を柔らかくした。

「メッ☆　もうイタズラしちゃダメだぞ！」

　武道が手を離すと、妖精は少し戸惑いつつもどこかへ去っていった。

（これでたぶん大丈夫だろう）

　妖精が飛んでいったであろう方向を見ながら、小さく息を吐いた。

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