寝子島高校妖精事件｜リアクション

寝子島高校妖精事件

●災難ラッシュ

　とある日の朝。
　北里雅樹はいつものように寝子島高校に登校してきた。教室に入ると周囲では妖精を見たかどうか、どんな姿をしていたかといった話で持ちきりだった。

（妖精か、俺には見えないがな）

　教室のなかを見回したり、ここに来るまでの景色を思い出してみる。しかし雅樹は皆が盛り上がっている妖精を一度もみていない。

（でもまぁ、悪さしない限り大事にはならんだろ）

　彼は深く考えることもなく自分の席に着いた。チャイムが鳴り、全員が席に着く。そして普段と変わらない授業が始まった。このとき、彼は知る由も無かった。これから自身に降りかかる数々の出来事に。
　授業は何事もなく進み、気がつけば昼休みになっていた。雅樹は購買でサンドイッチとコーヒーを買い、屋上へ向かう。秋晴れの空の下、それらを口に運ぶ。ほどよい風を感じながら完食した。
　日差しも強くなく、やんわりとした空気のなかで眠くなってきた雅樹は、ついうとうとし始める。いい塩梅になって眠りかけた瞬間、いきなり水が降りかかってきた。困惑すると同時に眠気が一気に覚めた。

（なんだ！？）

　雅樹はにわか雨でも降ったのかと空を見る。しかし空からは変わらず柔らかい日差しが運ばれてくる。それに屋上は彼の周辺以外濡れていない。

（わけが分からない……それにしてもびしょ濡れじゃないか、参ったなぁ……）

　体が冷える前に対処しようと、ポケットのハンカチで拭き始める。とんだ災難だと思っていると、屋上に来ていた女子たちがこちらに視線を向ける。そして何か小声で話し始めた。内容は分からないが、濡れた自分を不思議がっているのだろうと思った。
　しかし、その視線が不審者や変態を見る目だと気づいた。

（な、なぜだ？　俺は変態じゃないぞ！）

　そう反論したくなったが、手にしていたのがハンカチではなくレースの下着であることに気づくと呆然とした。ますます混乱する雅樹。さっき小声で話していたのはこういうことかと、嫌な形で納得してしまった。

（さっきから一体なにが起こって……そうか、妖精……！）

　朝方のことを思い出すと、まるで雅樹の心を読んだかのように目の前に妖精が現れた。緑に透き通る羽を生やし、羽ばたくたびにきらきらと光の粒子が小さく弾ける。

「このっ……！」

　頭にきて妖精を捕まえようとするが、ひょいとかわされ、校内へと逃げていった。すぐさま雅樹はその後を追う。
　廊下で必死に追いかけるものの、全然捕まえることができない。さらに妖精が見えない人もいるため、雅樹が不可解な行動を取っている様にも見える。そんななか、廊下のスプリンクラーが何の前触れもなく作動した。雅樹だけでなく通りがかった生徒はもれなく全員びしょ濡れになった。

「きゃあ！」
「なにこれ！？　故障！？」

　慌てる女子たちの濡れ透け状態を見て一瞬鼻の下を伸ばすが、そんな余裕はとある声にかき消された。

「このバカタコがっ！」

　体育科の吉田熊吉先生だ。どうやら騒ぎを聞いて駆けつけたらしい。

「お前の仕業か！　北里ー！」
「え！？　違いますって！」

　完全に雅樹が騒動の仕掛け人だと誤解されている。雅樹の近辺で異変が立て続けに起きているせいだろう。

（なんで俺がこんな目に……！）

　足に力をこめると無理やり走る速度をあげる。この状況では弁明している暇はない。結局、熊吉先生に散々追い回され続け、力尽きたところで捕まった。

「あんなことをした理由を聞かせろ」
「あれは……その、妖精が……」
「は？　妖精？」

　話は平行線を辿ってしまう。どうにか熊吉先生の誤解をといて、ようやく解放された頃にはすっかり日が暮れようとしていた。

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