寝子島高校妖精事件｜リアクション

寝子島高校妖精事件

●いたずらの犯人

　椎井莉鳥は学校の休み時間に、女子２人がとある言い争いをしているのを見かけた。

「妖精を見たんだよ！」
「虫の見間違いでしょ」
「違うって！　本当に妖精なんだって！」
「何言ってるんだか」

　莉鳥はその様子を見て、肩をすくめた。実は彼女には妖精が見えている。
　ただ、見える人とそうでない人がいるようで、先ほどのようなすれ違いが起きている。その辺をうろついているようだが、莉鳥は特に変なことさえしなければ無視するつもりだった。いそいそと授業の準備をする。
　次の授業は数学――桐島義弘先生の授業だ。先生は厳しく融通が利かないところがあり、騒がしさを嫌う。そのため授業は全員静かにしていて、サボることはできない。
　授業開始のチャイムが鳴り、今日も淡々と授業が進む。あまりに静かで、先生の声とチョークの音がよく聞こえる。

「……となるため、この式は……」

　先生が数式を黒板に書き込もうとしたら突如、数式ではなく見事な形をした女性の胸を黒板に書き出した。

（へ？）

　教室中の誰もがこの出来事に驚いた。さらに先生も硬直している。そんななかで、莉鳥はそれが妖精の仕業だとはっきり分かった。しかしあまりに唐突だったので介入するチャンスを失った。彼女は小さくため息をつきながら頭を抱える。

（桐島先生……ご愁傷様としか言いようがない……）

　しばらくは校内の噂になるだろう、と彼女は思った。
　数学はハプニングがあったものの、その後の授業は何事もなく進んでいった。それから莉鳥は陸上部の活動のためにグラウンドに向かう。
　着替えを終えて、ウォーミングアップを済ませると、走り高跳びの練習にとりかかる。バーの高さを設定して、所定の位置から走り出す。そしてバーの直前で踏み込み、体を宙に浮かせた。
　そのときだった。

「！？」

　バーの高さがいきなり上がり、本来なら超えられたはずのバーに思いっきりぶつかった。そしてそのままの勢いでマットに転がり落ちる。

「今のって……」

　体を状態を確かめながら思わず呟く。さいわい怪我はせずに済んだが、今起きた現象の犯人は明白だった。冷静な彼女もさすがに怒りを覚える。しかし、だからこそ莉鳥は練習が終わるまで無視することにした。その後も妖精から様々な妨害を受けたが、練習に専念し続けた。
　練習終了後、それまでの妨害に対する反発のように妖精を追いかけまわす。

「待ちなさい！」

いたずらっこのように逃げる姿をどこまでも追いかける。しかし結局捕まえることはできなかった。

「まったく……」

　諦めてシャワーを浴びた後、更衣室で着替える。息はまだ荒く、全速力で追い回したので喉が渇いて仕方がなかった。彼女はスポーツドリンクに手を伸ばすと、口につける。

「んっ！？」

　一口飲んで思わずむせた。これはスポーツドリンクではない。中身がタバスコに入れ替えられている。もはや誰がやったのかは考えるまでもない。涙目になりながら彼女はこう言い放った。

「今度出会ったら……覚悟なさい」

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