寝子高制服☆トリエンナーレ！｜リアクション

寝子高制服☆トリエンナーレ！

●アダルト：エントリーNo.17 長門翔鶴

「この長門翔鶴には夢があるッ！　そしてこの制服はその夢の第一歩だッ！！」

「ペン先デザインの靴下に、自分らしさを表現した！
　自分に似合っているかどうかもこだわりだが、似合っていると信じている！」

「あ、あれは……ニャニャ立ち！　……ってアレ！　あのカッコ良い立ち振る舞いはもしや、そんな」
　観客席にいた日暮ねむるの瞳が、いつになくカッと開かれた。いつもとろんと眠たそうなねむるが、こんなに目を見開くことはそうはない。それほど、彼にとって驚きの出来事が起こっていた。
「ま、間違いない。『ニャニャの不思議な冒涜』の長門翔鶴先生だ！！」

　週刊少年にゃんぷ。毎週月曜に発売される少年向けの漫画雑誌だ。どのコンビニにも置いてあるほどの発行部数を誇り、もちろん寝子高生にも愛読者は多い。
　そして、長門翔鶴――寝子島高校出身のこの女性こそ、その週刊少年にゃんぷで『ニャニャの不思議な冒涜』という漫画を連載する漫画家だった。そのストーリーはスリリングで、登場人物は個性的。特徴的な効果音や黒ベタ、それから身体を奇妙に捻ったカッコいいポーズが売りだ。そのポーズは巷では「ニャニャ立ち」とも呼ばれていた。
　
　この翔鶴、母校には恩があった。それは熊先生の授業中。体育にも関わらず漫画を描くという、当時から並みならぬ度胸のあった翔鶴であったが、その漫画は当然の如く先生に没収された。
　ところがだ。
　職員室に原稿を返してもらいに行った翔鶴を迎えたのは、熊先生の意外な言葉だった。
「このバカタコがっ！　……だが、なかなか面白いな」
　その言葉が、翔鶴の背を押してくれた。
　翔鶴は週刊少年にゃんぷにその作品を投稿し、見事にゃんぷに掲載されたのだ。

「漫画家としての第一歩の思い出が制服にある！」

　ズビシィィィーッ！！

　翔鶴は右手で空中に擬音を書き、左手でねむるを指差した！
　ろっこん＜サウンドスクリブル＞が発動する！
「おおおおおおっ！！　か、感じるッ！　まるでニャニャの主人公になった気分だぜッ！！」
　ねむるの身体を、電撃のような衝撃が「ズビシィィィーッ！！」と駆け抜けた。
「長門せんせ～いッ！！　今日もCOOLですっ、がんばってくださ～いッ！！」
　声援に踵を返すと、翔鶴は背中ごしに観客に別れを告げた。

●アダルト：エントリーNo.18 吉田熊吉

　舞台袖に戻って来た翔鶴は、これから出て行こうとする巨体とすれ違い……あろうことか、二度見した。
「ってちょ、熊吉センセー！？　あーた一体何してるんですかァーッ！？」

　歩くたびぶちぶちと弾け飛ぶボタン。
　全然サイズの合っていない上着。
　お腹はぴちぴち。チェックのスボンは丈が足りず。
　履きなれない皮靴の似合わないことったらない！
「いやあ、このサイズしかなくってな……に、似合うか？」
　恥じらいながらはにかむ巨体の男を、会場は「ぎゃー！」とか「うわー！」とか阿鼻叫喚でもって迎えた。
「お、おとうさん……！」
　娘のチカちゃんが、見慣れない父の姿に、目を皿のように丸くしている。
　折口ゆづきが、そんなチカちゃんの肩をぽん、と叩いた。
「一緒に応援してあげよ？」
「う、うん。おとうさん、がんばってー！」
「先生ー、チカちゃんも応援してますよー！」
　娘の応援に、ほんのり頬を染める熊。
「おー、頑張るぞ！　ええと、この服のこだわりか？　そうだな。このホイッスルは体育教師として忘れちゃならんだろ。あとは……ベルトんとこのこのキーホルダーだな。カワイイだろ、このクマさんは娘が選んでくれてなあ……」
　そういって熊吉は照れたように頭を掻く。

　……こんな熊先生、めったにないんだからね！

「――以上で、寝子高制服☆トリエンナーレ、全部門の出場者が終了致しました。
　これより、審査に入ります。しばらくお待ちください――」

　会場を大きな拍手が包み込む。
　今年はいったい誰が、『最優秀ねここー賞』を手にするのか！
　人々は固唾を呑んでその時を待つ――！