寝子高制服☆トリエンナーレ！｜リアクション

寝子高制服☆トリエンナーレ！

●悲喜こもごも？　楽しい出店巡りっ！

　青空の下、ぐるりと立ち並んだ出店のテント。
　あちこちに貼られた、カラフルな手製のポスターにのぼり。
　軽音楽部の軽快な演奏を背景に、中庭は一層の賑わいを見せていた。
　見慣れたクラスメイトも今日は私服だったりして、いつもとはガラリと雰囲気が違う。
　また普段は学校の敷地内では見かける事の無い、一般の参加者の姿もちらほらあり、生徒達はお祭りをより強く意識する。

「わあ……！　どこのお店も美味しそうで、目移りしちゃいますね～」
　巫部紫苑の声と足取りは、いつになく弾んでいた。
　あちらこちらから漂ってくる、ソースや醤油の焦げる匂いは、成長期の少年・少女達の心を惹きつけて離さない魔性がある。
　とは言え、欲しいままにすれば後悔する事になろうと、普通は自制するものだが、紫苑は違っていた。
「じゃあ、目に付いたものから順に食べていきましょう。今日は色々と食べ歩きますよ～♪」
　しとやかな外見にはそぐわない無謀を、あっけらかんと口にすると、紫苑はさらりとした長い髪を揺らしながら、本能に従ってお姉さん走りで出店に群がる人の輪に入っていった。

　真辺敬子は寝子高のOGだ。
　来る時には“冷やかし”なんて冗談も飛び出たが、いざ踏み込めば懐かしい母校。学生時代を思い出し、胸が高鳴る。見知った顔がないか、探しながら店を物色する。
「何か甘いもの食いたいなぁとは思うんだが……さて」
　“当たり”を引いてしまった敬子は、この後トリエンナーレに出場予定だったが、準備をするにもまだ少し時間が早い。
「まあ、楽しむとしますかね」

「楽しんでおいて、損は無いよねぇ」
　やはり姉弟と言うべきか、真辺伸幸は同じように知り合いの姿を探していて、ばちりと姉の敬子と視線が交差した。
「あれやあ、ねーさん。もう来てたのねー」
「ノブ！　お前、ちゃんと食うもの食ってるか？　あーあ、またこんなに寝癖つけて」
　弟の伸び放題の無造作ヘアーを撫で付ける敬子は、まるでお母さん2号。
　伸幸はくすぐったそうに、へにゃりと笑う。
「けーねぇ、変わらないなぁ。ちゃんと食べてるのよー。今日は友達が出店に居るから、ちょっと周ってみたいなぁ、なんてー……」
「へぇ、なら私もご相伴に預かろうかな？」
「じゃあ、一緒に周るのよー。そう言えば配ってたパンフに、お店の紹介もあった気がするねぇ」
　伸幸が実行委員が趣向を凝らしたパンフを開けば、ぱらりと足元に何かが落ちる。
「ぬん、カード？　ぬん、なんたるー……」
　拾い上げたのは、トリエンナーレの強制出場カード。奇しくも姉弟揃って、白羽の矢が立っていたのだ。
　伸幸はぬんぬん暢気なものだが、敬子は青褪めた。
「人前に出るのに、その頭はないだろ」

「トリエンナーレに来たはいいが、はてさて何をしよう……」
　ぶかぶかの白衣を羽織り、小振りの鼻にちょこんと鼻眼鏡を乗せているのは伊賀解理。
　そんな彼女の前を、弟の腕を引っ張った敬子が通過した。
　解理が何となく伸幸が持っているカードに目を向ければ“出場おめでとう！”の文字。
「もしかして、例のファッションショーめいたやつの事かね？」
　ま、まさか僕にも入って……？　淡い期待と、ドキドキを抑えて解理はパンフを摘んで揺する。
　しかし残念な事に、どんなにひっくり返してみても、カードが入っている気配はない。
「……いやぁ、良かった。入ってたらどうしようと思ったよ。あんなステージで歩くなんて想像したら……」

　解理は軽く唇を尖らせた。
「やばい、ちょっと楽しそうじゃないか！　くそ、なんで入ってなかった！」

「あら、何かしらこのカード。“出場おめでとう！”？　……まあ、いいか……とりあえず食べ物食べ物」
　ムクレる解理の気持ちなど露知らず、こちらもすれ違った紫苑は、変わらず軽い足取り。

「……とりあえず出店を巡ろうかな」
　気を取り直すと、解理は余った袖をぷらぷらさせながら中庭を見渡し、人の流れに身を任せた。