寝子高制服☆トリエンナーレ！｜リアクション

寝子高制服☆トリエンナーレ！

●制服：エントリーNo.50 野々ののこ

　綾辻綾花は、すこしだけ外の空気を吸うために講堂から出ていた。会場は相変わらずすごい熱気だが、綾花のようにどちらかというとシャイな女の子にはちょっぴり息苦しくもある。
　新鮮な空気を肺いっぱいに取り入れようと伸びをした綾花は、ふと、目の前を白猫が横切るのに気が付いた。
　白猫は、これ見よがしにすこし離れたところに腰を下ろすと、ぺろぺろと毛づくろいをはじめる。
　あまりに可愛らしいので、綾花は、普段から持ち歩いている猫のためのメモ帳、猫メモを取り出すとスケッチをはじめた。
「美人さんですね……ん、こんな感じかな」
　描きあげたスケッチを、本人（本猫？）に見せてみる。すると、白猫は突然綾花に飛びかかってきた。

「わっ、どうしたんですか？」
　白猫がかりかりと爪を立てているのは、さきほど綾花が描きあげたスケッチ。
「もしかして……絵に恋しちゃったんですか……？」
　そのときだった。一緒に応援をしようと約束をしていた七夜あおいがひょい、と講堂から顔を出した。
「ののこちゃんの出番、はじまるよ！」
「あ、はい！　……白猫さん、良かったら一緒に応援してくれます？」
「なあん」
　どうやら白猫さん、了承してくれたようなので、綾花はその子を抱き上げると、講堂の中に急いだ。

◇

「ののこちゃんも出るんだね」
「うん」
　野々ののこは、いつになく緊張した面持ちだった。案内係の桜庭円はそんな彼女に話しかけた。
「んーと、特別な事は何もしなくていいと思う。ただ、何時もどおり、自分らしさを」
「うん」
「ののこちゃんなら元気のよさをアピール。
　つまり、何時もどおり、元気に行って来ればいいと思うよ」
「うん」
「たぶん飾るんじゃなくて、自分らしさを見せる事。それが大事だとおもうからさ」
「うん」
　そんなふうに話しかけられているうちに、ののこの緊張も解けたようだ。
　名前を呼ばれ、円がののこの背中をぽんと押す。
「頑張っていっておいでー」
「うんっ、行ってくるよ！」

　こうしてののこは、元気よくステージへ！
「ののこちゃん、とっても可愛いですよ！」
「頑張ってー！」
「なあん！」
　あおいと綾花が手を振っている。先ほどの白猫も一緒だ。

「制服着てます！
　胸はちっちゃいけど、楽なので前を開けてます！
　ハイソックスは紺色です！　白も黒もいいけど、紺です！
　ときどき居眠りしちゃってよだれが垂れることもあるけど、ちゃんと洗濯してるし！
　リボンも上手に結べるようになったし！
　この制服を着て、いっぱい友達ができたし！
　思い出もいっぱいできたし！
　寝子高に来てよかったなーって思ってます！
　これが青春なんだね！　青春って楽しいね！
　これからも、いっぱい青春しますっ！」

　――これが、制服パートのラストを飾る言葉になるかと思われた。
　ところが。

●制服：エントリーNo.?? ？？？

　突如謎の男が現れた！
　男は優雅な足取りでキャットウォークを歩いてくる。
　車検のときはすぐ外せるぞ、みたいな継ぎ足しカスタムをした制服。
　一番の特徴は、切れ込みの入った燕尾服風のあて布だろうか。
　そのほかにもベルトやら、目出し帽やら、アヒルちゃんやら、スクール水着やら、賑やかなことこの上ない。

　ほつれかけた包帯から覗くのは、不敵な笑み。しかも、けっこう美青年。
　男は、キャットウォークの端まで来ると、大道芸人のパントマイムめいた大げさな動きで、カバンに入っていたトランプやら、ぬいぐるみやら、キャンディやらを観客席目がけてまき散らした。
　六月一日宮檸檬が叫ぶ。
「お前誰だっ」
　男は、さあ誰でしょうねえ、とばかりに肩をすくめる。
　ひとことも喋ろうとはしない男の態度は、まるでピエロのようだった。
　やがて、自分のことを観客に充分印象付けることができたと悟ると男は満足そうな笑みを浮かべ、会場中に大きく手を振りながら退場していった。

　その後、舞台はしずかに暗くなった。
　ここで、１０分間の休憩である。