寝子高制服☆トリエンナーレ！｜リアクション

寝子高制服☆トリエンナーレ！

●制服：エントリーNo.40 花風もも

　堀和哉と露店を見て回るのは楽しかった。
　やさしいお兄さんの和哉。彼といっしょに甘いクレープを食べたあとは、モントジッェルでドイツのお菓子も買った。今日は来れなかった義姉へのお土産だ。
　トリエン出場の時間が近づくにつれドキドキが高まる。
　気になるのは、片思い中の彼がどう思うかだけれど……。
　ももの男子制服姿を、和哉は「似合う」と言ってくれた。
　そのことだけを心の支えに、ももは、もじもじとキャットウォークを歩く。

「その……。拘りだとか特にないのだけど……。
　お友達がいつも着ているから僕も着てみたいなあ、なんて思ったの……。
　本当は、別のクラスの好きな人に借りてみようかなって思ったりもしたのだけれど
　変な子に思われちゃったら嫌だなって思ったらどうしても、いい出せなくて……」
　観客席のあちらでは一緒に出店を見て回った和哉が、こちらではいつもやんやと賑やかな彼や猫鳴館の仲間たちが、わあわあ手を振ってくれている。それを見たももは、胸につっかえていた小石が落ちたような心もちだった。
「えっと、その……。
　よろしく、お願いします……」
　頬を染め、恥ずかしげにそっとお辞儀をする。気分は、悪くなかった。

●制服：エントリーNo.41　維都月茉菜

「フフ……フハハ……フハハハハハ！」
　突如、清々しい高笑いが会場に響き渡った。
　花籠を持った黒子の皆さんが現れて、キャットウォークにカーネーションの花びらを撒き散らす。
　舞い散る赤い花びらの中に登場したのは、維都月茉菜！
「僕はもう何も恐くない！　ああ、なんて心地良いんだろう！」

　翻るのは、金の縁取り鮮やかな白いマント。
　軍服風の制服は、手に入れた男子冬服を元に、友人たちとアレンジの限界に挑んだ渾身の作。
　黒のハイブーツは高らかに鳴り、ゆれる金の肩章や飾緒が美しい。
　白手袋を嵌めた手には一輪の赤いカーネーション。
　茉菜は清々しい表情で、傲慢不遜に、ゆっくりと歩いてくる。
　閣下！　思わずそう呼びたくなるような威風堂々とした佇まい。
　しかし普段の彼女が、こんな不敵な性格なわけではない。
　明るいけれど、病弱な照れ屋さん――それが、ふだんの茉菜だ。
　
　この衣装を作り終えたとき、茉菜はここまで勇気の篭った『ゆうしゃ』な服を着るつもりなんて毛頭なかった。トリエンに当たった人が着ればいいよ、自分は舞台の下からろっこんで応援しているから……なんて言っていたらカードが入っていたのは自分だけ、という事態である。
　不安で堪らなかった茉菜は、舞台袖で目を閉じて両手を組み、天使に祈りをささげ続けた。
　何度も何度も、出番が来るまで。
　何度も、不安が消えるまで……。

　茉菜のろっこん、＜大天使の加護＞。
　それはたしかに発動し、茉菜の気分や思考を、明るくかつポジティブなものにした。
　――多少、いきすぎた感は無きにしもあらずだけれど……。

「ハハハハハッ！　さあ、僕の気持ちを受け取ってくれるのは誰かな？」
　茉菜はキザな笑顔でそういうと、持っていた赤いカーネーションを会場に投げ飛ばした。
　それを見事にキャッチしたのは――
「わっ！　うそっ！」
　なんと！　熊の隣にいた、緑のドレス美しい桃原空音だった！
「やあ、素敵なお姫様に受け取ってもらえて光栄さ！」
　キラッと王子様風の微笑みを浮かべれば、今日はどこか調子が狂っている空音は、ぽっと乙女風に頬を染めたりなんかしている。
　フフッと流し目でマントを翻し去る茉菜。
　とろんと瞳にハートを浮かべたままの空音。
　完全にスポットライト外な熊。
　奇妙な三角関係だった。

　――茉菜が我に返るころには、後の祭りというやつである。