寝子高制服☆トリエンナーレ！｜リアクション

寝子高制服☆トリエンナーレ！

●制服：エントリーNo.16 鴻上優梨乃
　
　鴻上優梨乃は、舞台袖で汗ばむ手のひらを見つめながらつぶやいた。
「委員会でのスピーチは緊張しないのに、どうしてこんなに緊張するのかしら……」
　優梨乃はシーサイドのマンションで猫と二人暮らし。猫に見守られながら、自宅でもウォーキングの特訓をしてきたというのに。
「センパイ、いつも通り気楽に、だよ」
　にゃーくんを肩に乗せた桜庭円に声を掛けられ、優梨乃はそうよね、とドキドキを飲み込む。
「あんなに練習したんだし、上手くいくわよね」
「うん、センパイ、とってもかわいいよ」
　そういって円が胸元のリボンを整えてくれる。
「ありがとう。ええい、女は度胸よ！！」
　優梨乃は歩いた。さっきまであんなに緊張していたなんてことは、微塵も感じさせず堂々と。

「着こなしのポイントは全体的に青色でまとめたところと、胸元のリボンの結び目に付けたブローチです。これはシーサイドタウンの雑貨屋さんで購入したもので、その日の気分に合わせて変えています」
　髪の色に似合う青いブローチ。シャツのレースがお嬢様らしくて素敵だ。タイツや靴のアクセントにもブルーの色が使われていて優梨乃らしさを演出している。
「学校指定バッグに付いている猫のキーホルダーは、飼い猫をイメージして自作した物で、裏側はミラーになっています。飼い猫の名前はバニラちゃんって言ってもうほんと可愛いの！　小さくって白い毛並みがもふもふしてて……！」
　そこまで言って、つい相貌を崩していたことにはっとする。
「いけないいけない、バニラちゃんの事になるとつい熱くなっちゃう……！」
　優梨乃はそこで一礼し、無事自分の出番を終えた。

●制服：エントリーNo.17 浅山小淋

　続いて登場したのは、支援部部長・浅山小淋。
　ふだんなら、会話は手話かスケッチブックで行うのだが、さすがにステージの上ではそうはいかないだろう。
　そう考えた小淋は、事前に司会者にコメントを渡しておいた。

「小淋ちゃんー！　頑張ってー！」
　もしかして緊張してるんじゃないだろうか。運よくショーの最中に休憩が取れた千鳥雅人は、部長のそんな微妙な雰囲気を読み取り声援を送った。
　その声が小淋に届く。
（ありがとう）
　すこし肩の力が抜けた小淋は、雅人の声に感謝しながらキャットウォークの端で静かに一礼をした。
　彼女のコメントが読み上げられる。
　

「いざ参加が決まったとはいえ、アレンジなどは特にないのですが……。
　しいてあげるとするならば、左腕につけた黄色のリボンくらいでしょうか。
　このリボンが丁度、私の所属する支援部のトレードマークにもなっているんです。
　寝子島に合わせて猫の耳を模した形にもなっています」
　司会者がコメントを読み終えたのを確認し、もう一度深く一礼。
　支援部仲間の応援が続く。
「小淋様」とにっこり手を振ってくれている哀坂極夜。
「可愛さの中に意志の強さを感じますね……正に牡丹の様な美しさですよ、部長」と添木千唐も。

『緊張しました……』
　戻って来た舞台袖で、まっさきにスケッチブックに書いた言葉はそれだった。
「良かったよ！」
　待っていた優梨乃に声を掛けられた小淋は、『鴻上先輩も素敵でした』と綴る。
　ふたりは、上目遣いに労いあって、ようやくほっと微笑むのだった。