占い少女はいつも腹ペコ｜リアクション

占い少女はいつも腹ペコ

◆精神的双生児の未来

「初めまして、イムイムさん……えみな・かーさ、です」
「かーさ？　はじめまして！　ようこそなのだ！　まあどうぞ掛けてくださいなのだ！」

　テントの中、イムイムにそう促されて椅子に座ったのは恵御納夏朝だ。夏朝はイムイムの前で包みを開くと、口を開いた。

「秋という事で栗ごはんとスイートポテトを作ってきたよ。これでどう、かな？」
「おおお！　美味しそうなのだ！　ありがとうなのだ！」

　その中身に目を輝かせながら、イムイムはそれを受け取る。そうしてどこからか取り出したスプーンを栗ご飯に突き立て、もぐもぐと食べ始めた。

「実をいうと……占ってほしい部分は内容も事情も、結構特殊で」
「ふむふむ」
「僕の中には、大切な別人格……夏夜ちゃんがいて。『夏夜ちゃんと心身ともに分離・共存する』って願いを叶えたくて……その願いが叶うかどうか、を占ってほし……くはあったんだけど……」
「ん？　どうしたのだ？」
「１人の人間が２人になる、みたいなイメージで、人間が１人生まれるようなものだから……実質、『生死にかかわる』範疇って事に思い立ってから気が付いて……」
「うーん……そう言われるとたしかにそうなのだ。こういうのはテツガクっていうのか？　なかなか難しい話なのだ……」

　イムイムは夏朝の話を否定せず、真剣に聞いている。時折押し黙るとモグモグ口を動かしているのはご愛敬だ。夏朝はイムイムの様子を見ながら、こう続けた。

「願いが叶うかどうかを占うのが難しい場合は『僕等の未来』か『僕の未来』……総合的な未来、な感じで占ってもらえると嬉しい、です」

　それを最後まで聞くとイムイムはゴクリとご飯を飲み込み、なんだか神妙な面持ちになる。

「わかったのだ」

　そうして懐からカードを取り出しては机の上に並べていく。夏朝がカードを繰るイムイムの手を眺めていると、イムイムは突然腕を組み、唸り始めた。

「んむー……んむむむむー……」

　夏朝がドキドキとその様子を見守っていると、イムイムは何か天啓でも得たかのようにピンと立ち上がり、すぐさま座ってカードを開き始めた。

「うーん……分離する未来は未だ見えなかったのだ。ごめんなのだ。ただどっちにしろ、未来のカーサは重大な選択を迫られることになるのだ……心を強く持ってほしいのだ」

　こう言いながら、彼女は戦車の描かれたカードと死神の描かれたカードを指さし、最後に女教皇の描かれたカードの上で指を止める。そして顔を上げ、夏朝と視線を合わせた。

「大事なのは自分のこと……そして周りの人を信じることなのだ。もちろんカヤのことも信頼するのだ。カヤのことを相談できる友達とか家族とかはいるか？」

　イムイムがそう言った瞬間、夏朝がぐっとスカートの裾を握りしめる。それをイムイムは確りと捉えて目を伏せた。

「……難しいかもしれないけど、もしいるならその人を頼るのもアリなのだ。何か活路が見出せるかもしれないのだ」

　ここまで言うと、イムイムはスポーツ飲料をごくごくと飲み始めた。どうやらこれで占いは終わりらしい。夏朝の手がするりとスカートを離れ、イムイムの手の上に重なった。

「占ってくれて……本当に、ありがとう！」
「おお！？　どういたしましてなのだ！」

　結果を聞いている間じゅう硬かった彼女の表情は、ふわりと柔らかくなっている。テントの外には野良猫が集まっているのか、みゃーみゃーという鳴き声が聞こえた。夏朝はそちらに視線を奪われつつ、イムイムに向き直る。

「寝子島、楽しんでいってね……！」
「うむ！　めいっぱい楽しむのだ！　カーサもカヤと仲良くなのだー！」

　イムイムと夏朝は固い握手を交わして別れた。去っていく彼女の後ろ姿を見送ると、イムイムは次に控えていた客の声に反応する。

「お！？　次の人、どうぞなのだー！」

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