過ぎゆく夏の夜｜リアクション

過ぎゆく夏の夜

「はぁ、お腹空いた……」

　今日も今日とて寝子島アニメーション学院声優科で声優になる為の勉強を行って来た落合まゆらはお腹を摩りながらそう呟く。
　普段であればこういう時、どこかに食べに行くのだが今年はクーラーを思い切って購入した為に金欠状態に突入していた。
　その上、クーラーを買ったという事は月々の電気代の事も今まで通りとは行かなくなる筈で、それを考えると今無駄遣いをする事は出来ないとまゆらは思っていた。
　
　バイト代が出るのは月末で、まだ先という事もあって今日は外食は控えて大人しく自炊で済ませようと自宅へと足を向ける。
　すると、まゆらが持っているスマートフォンから通知音が鳴る。どうやら誰かからSNSを通してメッセージが届いたようである。

「えっ！？」

　早速スマートフォンを確認してみたまゆらはその内容に驚き、思わず声を上げ足を止めてしまっていた。
　メッセージを送ってきた相手は星ヶ丘寮に住んでいる寝子高の後輩だったのだが、その内容が星ヶ丘寮のプールでナイトプールをしており、まゆらも一緒にどうか、というものであったのだ。

「ナイトプールって……何か凄くセレブな響き」

　プール自体の利用はまゆらとてした事はある。だが、ナイトプールなどというものは経験はないし、何だったらその言葉を日常会話の中で実際に聞くのも初めてなくらいだ。流石は寝子島高校のセレブな生徒達が集まる星ヶ丘寮と言ったところであろうか？
　だが、この誘いはまゆらにとって都合が良いと言える。ナイトプールそのものにも興味がある上に、星ヶ丘寮ならば軽食でも美味しいのがきっと食べられるだろうと。

「返信、返信っと」

　悩む必要などないという様子で後輩の子へと返信をしてから支度を整える為に足早に自宅へ向かうまゆら。
　余り待たせては悪いと支度そのものも手早く終え、ねこでんで星ヶ丘に行こうとすると何だか随分と立派な車が丁度止まるところであった。

「うわぁ、凄い車……」

　時折テレビで有名人が乗っているような車に驚いていると、運転席から運転手が降りてきてお迎えに上がりましたと告げられ、まゆらは三度目の驚きの声を上げる事となる。
　話を聞いてみれば、どうやら誘いの連絡をくれた後輩の子が手配した迎えであるらしい。

「あの短い間で迎えが用意できるとかセレブ怖い」

　まゆらのその言葉に彼女の心境は集約されていた。

「解ってはいた。解ってはいたけど、やっぱりセレブ空間っ」

　まゆらが持参した水着に着替えて、案内に従いプールに一歩踏み出してみればそこはまるで別世界。え、トンネルを通ってないけどと妙な事さえ考えてしまうくらいには別世界であった。
　正直な話、庶民であるまゆらには気後れしてしまうようなところであったが、後輩の子が折角誘ってくれたのだからと開き直って楽しむことにしたようだ。

「……落合先輩？」
「あれ、こんばんは。こんなところで奇遇だね」

　プールで暫し泳ぎプールサイドに上がったところでまゆらは遠藤健に遭遇する。どうやら健も知り合いに誘われてやって来たようだ。

「水着、とても良く似合ってて良いですね。落合先輩はスタイル良いからそういうタイプの水着は映えますよね。色もピッタリですし」
「ん、そう？　ありがとう」

　少し恥ずかしそうに微笑むまゆら。ちゃんと選んで購入した水着なので自分でもそれなりに自信はあれど、面と向かってそう言われるのは少し恥ずかしいようだ。
　他に知り合いが少ない事もあってか、まゆらと健は暫し会話を続ける。
　プールでの夜はこうして穏やかに過ぎるのであった。

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