華麗なる星ヶ丘喧嘩奇譚｜リアクション

華麗なる星ヶ丘喧嘩奇譚

「ち、ちくしょ～……ヒデー目にあったぜ」
「アニキィ、アタイもうカツアゲはやめるよ……星ヶ丘のお嬢さまみたいにおしとやかになるよ……」
　制裁は極めて物理的かつ強硬であったらしく、勝アゲルとアゲヨの兄妹はすっかりしょぼくれて、キャットロードをすごすごと歩いていた。
　わらわらと後ろを歩いていた取り巻き連中の姿も、今はない。以前は兄妹を慕っていた彼らも、ボッコボコのボロ雑巾と化した二人を目の当たりにし、どーする？　まだこの二人についてくの？　他のもっと強いヤツに乗り換えねえ？　みたいな目線をやりとりした後、一人、また一人と去っていった。不良とは非情な渡世なのである。
　と。
「どうしたんだい、レディ。そんなにしょぼくれてちゃあ、美人が台無しだよ☆」
「あ？」
　颯爽登場！
　唐突に現れたのは誰あろう、八十八旗信彦であった。
「てめえ、この前アタイにワンパンＫＯされたナヨナヨ男じゃ……って、アンタら何やってんだい！？」
　それだけではない。
　信彦がずらずらずらりと後ろに引き連れているのは、アゲヨを見捨てて去ったはずの、取り巻きの不良女子生徒たちではないか！
　彼女らはまるで、年頃のまったく普通の女子高生のような活き活きとした笑顔を浮かべて、
「アネキ、アネキ！　こいつすげーんすよ！」
「魔法っす！　こいつは魔法使いっす！」
「ああ？　魔法……？」
「こいつが黒いカード見せたら、どんな食いモンもタダになっちまうんす！　どんな店も食い放題なんす！」
「アネキも一緒に行きましょうよー！」
　信彦という男、喧嘩の腕っぷしは語るも無残だが、実家が超お金持ちである。信彦名義のブラックカード一枚あれば、食べ盛り伸び盛りな不良生徒の胃袋を掌握するなどわけもないのだ。
　きらり白い歯を見せ、信彦はおもむろにアゲヨの傷ついた手を取った。
「あッ。な、何を……」
「レディを笑顔にするのは、紳士の義務。君のような麗しいレディを落ち込ませたまま帰しては、俺の美学に反するのさ」
「れ、レディ？　アタイが……？」
　アゲヨの頬がにわかに赤く染まり、取り巻き女子生徒らがヒューヒュー！　などと時代がかった口笛ではやしたてた。和気あいあいである。
「ねえ、君。名前は？」
「あ、アゲヨ。勝アゲヨ……」
「アゲヨちゃん。良かったら親睦の証に、一緒にご飯でも食べに行かないかい？」
「で……でもアタイ、星ヶ丘のお嬢さまみてーに可愛くないし……ガサツだし、こんなに傷だらけだし……」
　まぶしいものから目をそむけるように顔をそらしたアゲヨに、信彦はち・ち・ち、と指を振る。
「女の子は誰だってレディさ。美しいアゲヨちゃん、俺にエスコートさせてはくれないかい？」
「は、はい……！」
　手の甲に寄せた唇がトドメであった。
「じゃあ行こうか、レディたち！　今日は俺のおごりだよ。好きなだけ食べて飲んで、楽しもうじゃないか！」
「「「イエーーーイ！！」」」
　完全に乙女の顔となったアゲヨと不良女子たちを引き連れて、信彦は揚々と去っていった。
　今夜はパーティーだ！

　そして、
「あの……俺は……？」
　一人残されたアゲルは、路上でぽつんと膝を抱えて物思いにふけっていた。
　通りすがる人々は彼を避け、いぶかしげに見下ろしていく。中には声をかける者もあったが、アゲルは放心したままだ。
　一人の寝子高女子が近づいてきて、彼を見下ろしひと言、ぽつりと言った。
「……お前はただの人間だ」
　虚栄心はアゲルの反応が無いのを見て、満足そうに鼻で笑うと、立ち去っていった。
　アゲルはその後、薬局の店先に立つ不細工なマスコット人形の隣でうたた寝しているところを警察に保護され、無事お家へ送り届けられたという。
　めでたし、めでたし。

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あとがき

担当マスター：網透介
ファンレターはマスターページから！

　今回も、大変お待たせして申し訳ありません。
　喧嘩譚の第二弾をお送りいたします。

　勝アゲルの再来、妹のアゲヨも登場したバトルなシナリオでしたが、やはり寝子島の皆さんはお強く、見事撃退となりました。
　小紫十矢花と吉良美耶花の二人も無事に逃げおおせたようです。
　ただ、マタ工不良界の層は厚く、また新たなヤンキーたちが押し寄せることもあるかもしれませんので、油断はできません。
　その時はぜひ、皆さんの力で、寝子島の平和を守ってください。

　それではこの度はご参加ありがとうございました。
　こんな私ですが、今後ともよろしくお願いします。

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華麗なる星ヶ丘喧嘩奇譚

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