もはやモデルさんでＳＨＯＷ！｜リアクション

もはやモデルさんでＳＨＯＷ！

　有り体に言って滝原レオンは混乱していた。
　いつものように女装をして出かけていたらレオン自身、何だか解らない内にモデルの真似事をしなければならなくなっていたが、問題なのはその衣装だ。

「あの、ワイシャツしかないんですけど！　何かの手違いじゃ！？」

　そう。レオンに用意されていた衣装は何故か一枚のワイシャツだけであった。丁寧な事にレオンには少し大きめのサイズであったりする。
　きっと何かの間違いでワイシャツだけしかないのだろうとレオンは思いたかったが、しかし、現実はいつも残酷である。女悪魔の返答はそれで合っているというものであった。

「嘘だろおい……！」

　だが、どんなにレオンが苦情を言おうともそれが受け入れられる事はない。何故ならば女悪魔は自らが用意した衣装を着ているレオンが見たいからだ。
　その事を理解したレオンはしぶしぶながらも着替えを始める。しかし、女悪魔はその着替えの仕方にさえ注文を付けてくる。

「え、ボタン留めすぎ？　留めるのはひとつだけにして？　それにパンツも脱げ？　って、ちょっと待ってさすがにそれは……あー！」

　どうやら女悪魔はレオンを一目見た時から彼にどのような衣装を用意して、どのようにそれを着て貰うか。イメージが出来ていたようだ。
　そのイメージ通りにする為に、まるで物剥ぎかと言わんばかりに下着をも剥ぎ取る女悪魔。
　第三者から見ればただの変態にしか見えないが、ここは主催である彼女のテリトリー。即ちは女悪魔こそがルールであった。

　そして、恥ずかしがっているレオンを半ば無理やりステージへと引っ張り出す女悪魔。
　すると、途端にステージの下から歓声が上がる。レオン以外に連れて来られた人物達が出た時と比較してもそれは負けず劣らずと言えた。
　どうやら撮影をする悪魔達は主催である女悪魔がレオンに用意したコンセプトというものを理解出来ているようだ。つまりは――彼ワイシャツだ。

「うぅ、恥ずかしい……！」

　恥ずかしそうにぼそっと呟きながら、レオンは必死で裾を抑えるがそれは寧ろ、女悪魔の意図に近い行動であった。
　それ故にステージ下の悪魔達もより一層の事、盛り上がるのだが何故そうなるのかレオンにはいまいち良く理解できないでいる。
　すると、女悪魔からただ立っているだけでなくてポーズを取れという指示が飛んでくる。だが、今でさえ恥ずかしいと言うのにそんな事などレオンが出来るわけはない。

「そ、そんな恥ずかしいポーズ取れるわけな……あう！」

　抗議や反抗は許さないとレオンへ鞭が振るわれる。痕は出来ないけどしっかりと痛いという性質の悪い鞭だ。

「わ、わかりました！　やります！　やりますってば！！」

　鞭の痛みに涙目になりながらレオンは女悪魔の指示に従う。
　比較的スタンダードな立ちポーズから始まり、ステージ下へ背中を向けた状態から流し目をしたかと思えば体育座りをして上目遣いをさせられたり。
　時間の許す限り様々な指示が飛んできて、それを行う内にレオンの中にそれまでとは違う別の感情が生まれようとしていた。

（なんか、なんだろう……？　こんなことさせられて恥ずかしいのに、なのに……！　何この気持ち、ドキドキする……！）

　あくまでも無理やりさせられている筈なのだが、やっている内にどうやら快感を感じるようになってしまったのか。
　その事に気付いた時、まるで自らの中にあった闇を覗きこんだかのようにレオンはぶつぶつと呟き始める。

「俺は普通俺は普通これはただの気の迷いだ決して俺の意志じゃない俺は普通だ俺は普通……」

　だが、果たしてレオンは気付いているのだろうか。バレるかもしれないという可能性を考えながらも女装をしている時点で十分に――。
　幸いにして、レオンが完全に病んでしまう前に悪魔達は満足したようで彼は解放される事となった。

「よ、よかった……。……いや、残念とか思ってない！　思ってないから！！」

　誰にともなく言い訳をするレオン。彼の中にある禁忌の扉は何時の日か開かれてしまう時は来るのだろうか？

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