夢のふくびきや、三たび｜リアクション

夢のふくびきや、三たび

ふくびきやのガラガラを回した響タルトは出てきた福引きの玉に書かれていた『２』という数字を見た瞬間、寝子島ではない場所に立っていた。
　高級ホテルの一室というか、豪奢な飾り付けと、高そうなクロゼットやソファ、ベッドなどが配置されている。
「あれ」
　タルトが自分の姿を見下ろす。これまた高そうな、西洋の男性貴族が着ていそうな装いになっていた。近くの姿見に自分を映すと、
「少年になってる……！」
　精悍な顔立ちの若者の姿がそこにあった。美少年と言っても差し支えないだろう。
「えーと、僕は何してるんだっけ」
　そこでようやく自分の立場や状況が頭の中に流れ込んできた。
　父に言われた貴族の姫との政略結婚、愛し合った恋人のアルフレドの存在。
「そうか、僕は」
　この家にいては愛のない結婚を強要されてしまう。アルフレドと結ばれるためには駆け落ちしかない。
　タルトは決意を新たに、窓から飛び出した。彼のもとへ向かう。

　彼は質素な丸太小屋で一人暮らしをしている。ドアを開くと、すぐに出てきてくれた。
「タルト……？　こんな時間にどうしたの」
　純粋に、不思議そうに首を傾げる彼の容姿は、儚げで守ってあげたいと思わせられる。
　タルトはアルフレドの両手を握った。
「ねぇ、一緒に逃げよう。この町にいたら、僕達は引き裂かれてしまう」
「この町から？」
　アルフレドは不安そうに見つめていたが、
「わかったよ。タルトが言うなら」
　なんとか納得してくれた彼の手を引いて逃げだした。
　町のはずれまでやって来て、衛兵がいないことを確認、一気に外へと飛び出す。
　しかし、
「！」
　前方に誰かが立っていた。鎧を身につけているようだ。
「あなたは……」
　見覚えがある。
「姫の護衛の騎士？」
　タルトの計画に気付き、待っていたようだ。彼の姫への眼差しは愛おしさに溢れていた。姫を悲しませないためにここに来たのだろう。
「ねえ、姫が好きなんだろ？　姫に愛のない結婚をさせるより、僕らを見逃してよ」
「簡単に言ってくれるな」
　彼は苦々しい表情で剣を抜いた。
「逃げ出そうとしているお前に姫を任せたくなどないっ、しかし、私はただの護衛の騎士だ。彼女の相手にはなれない」
　理屈じゃない。タルトは誓う。愛の力を信じるのだ。
「わかった、勝負だ！」
　アルフレドが不安そうにタルトを見る。
「大丈夫、必ず勝つ」
　タルトと騎士は同時に駆け出した。
「はああっ！」
「せいっ！」
　剣と剣がガキンッとぶつかり合う。
「姫様はすでに覚悟を決めている。お前はそれに答える義務がある」
　騎士の震える声にタルトは目を細めた。
「君も覚悟を決めたらどう？」
「え？」
　タルトは身を引いて剣に込めた力を抜くと、騎士はバランスを崩してしまう。
「ごめんね」
　タルトは言って、剣の柄を彼の腹に打ち込む。
「ぐあっ……」
　崩れ落ちた騎士は腹を押さえてうずくまった。
「そんな迷いの剣では勝てないよ」
　と、その時。後ろから足音がした。振り返ると、そこには息を切らした貴族の姫が。ドレスが汚れてしまっている。
「ティム……」
　騎士にかけより、体を起こす。
「姫、様？」
「何故、こんな。わたくしは、一緒にいられるだけで幸せなのに」
　タルトはアルフレドの手を引いた。
「行こう」
「で、でも」
　姫は深々と頭を下げただけで、何も言わなかった。タルトはしっかりとアルフレドの手を握りしめていた。

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