ひまわり迷路へいらっしゃい｜リアクション

ひまわり迷路へいらっしゃい

●ひまわり迷路でまったりと

　御巫時子は散歩中にどこからか可愛らしい声が聞こえることに気づいた。しかしその姿を確認することができない。

「こっちこっち～」

（声の主は誰でしょうか？）

　しかし声に悪意は感じられないので、足の向くままに声のするほうへと歩いていく。その途中で寝子島高校の教師である五十嵐尚輝先生に遭遇した。

「尚輝先生こんにちは」
「こんにちは」
「先生も声に誘われたんですか？」

　先生はその問いに頷きながら時子が向かっていた方向を指差す。時子はここで出会った偶然に感謝しつつ、２人で一緒に向かうことにした。

「こっちだよ～」

　声はそれからも２人に呼びかけて、気づけば九夜山の裾野までやってきた。そこに待っていたのは、ずらりと咲いたひまわりの姿だった。鮮やかな黄色が２人の目に飛び込んでくる。よく見るとひまわりたちが壁を作り、入り組んだ道で作り上げた迷路になっている。そして２人に呼びかけていたのが、可愛らしい小人たちだったことを知る。この小人たちはひまわりの精というらしい。

「素敵な場所を教えてくれてありがとうございます」

　時子はひまわりの精に小さな声でここへ連れてきてくれたお礼を伝えた。それから尚輝先生と一緒に迷路の中へと入っていく。迷路の中では妖精たちが和気藹々と過ごしており、その姿を微笑ましく見ながら２人で迷路を進んでいく。

「私より背の高いひまわりが多いですね」
「そうですね。立派に育ってます」

　なかには尚輝先生より大きいひまわりもあるようだ。そんなひまわりたちの話題を中心に、色々なことを話しながらゆっくり歩く。ひまわりに囲まれながら進んでいると、まるで夏の真ん中を歩いているようだ。進んでいくうちに分かれ道にでくわして、なんとなく右に曲がったらひまわりの壁に道を塞がれてしまった。

「あらあら、行き止まりですね。違う道を探しましょう」

　こういうのも迷路の楽しみ。来た道を戻りながら分岐点で今度は左へ向かう。すると徐々に祠が見えてきた。妖精たちによると、これは桃色ウサギの祠だという。友情や恋愛など人間関係にご利益があるらしい。
　時子は祠に近づくと静かに手を合わせた。

（良いご縁がありますように）
（今でも十分素敵なご縁があって尚輝先生と出会えましたし。本当に幸せです）

　心のなかでそう呟くと、祠を後にする。その後も行き止まりからのＵターンを何度かしながら、別の祠にたどり着いた。先ほどの祠とはまた別で、こちらは青カエルの祠だと妖精たちが教えてくれた。近くには水の綺麗な泉があり、健康や長寿にご利益があるという。
　こちらの祠でも先ほどと同じく拝んだ。

（尚輝先生には健康でいていただきたいですし、長生きもしてほしいですね）

　拝むのを終えると、２人で泉のほうへ向かった。そっと手を入れると暑さが和らぐような気がした。その水を口に含むとなかなか美味しい。時子に勧められるままに尚輝先生もその水を飲んでみると、おいしいですね、と答えた。
　少し休憩も兼ねてここで涼んだ後、再び出口を目指して出発する。行き止まりさえも楽しんで、雑談しながら歩き続ける。そうしてようやくゴールにたどり着いた。
　２人は迷路を抜けると、楽しい時間でしたね、とお互いに笑いあった。

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