ひまわり迷路へいらっしゃい｜リアクション

ひまわり迷路へいらっしゃい

●久しぶりのデート

　浅沼柳司は耳慣れない声に誘われるままに九夜山の裾野を訪れた。そこには一面に広がるひまわり畑と、可愛らしい小人――ひまわりの精たちがいる。鮮やかに咲くそれはただの畑ではなく迷路になっているらしい。

「きれいなひまわり畑やし、小人も害ありそうな感じちゃうし……せっかくやから若菜誘ってみようかなー」

　そう思い立ち、スマホを取り出すと十文字若菜にメッセージを送った。

　　　＊　＊　＊

「あっ、柳司君からラインだ！」

　柳司の送ったメッセージを若菜は星ヶ丘寮の自室で受け取った。

「ひまわり迷路？　楽しそう！」

　若菜は『いきますっ』と返事を送ると、わくわくしながら出かける準備を始めた。そして柳司に教えてもらった場所へと向かう。

　　　＊　＊　＊

「お、来るって」

　柳司は嬉しそうに笑みを浮かべながらスマホを見る。この場所の詳細を伝えて、彼女が到着するのを待つ。

「じゃあ来るまでの間小人と遊んでようかなー。といっても入り口近くだけやけどなー」

　おいかけっこはきっと入口だけでは無理だろうから、やれるとしたら『だるまさんが転んだ』だろうか。

（そもそも精霊みたいな相手に『だるまさんが転んだ』が成り立つんやろうか……）

　そんなことを考える柳司の周りでは、精霊たちが楽しそうにはしゃいでいる。考えてもキリがないので、若菜が来るまでの間、精霊たちとじゃれあうように過ごす。

「柳司君！」

　しばらくして若菜が手をぶんぶんと振りながら、柳司のところへやってきた。柳司は若菜を満面の笑顔で出迎える。近くには小人たちもいる。

（小人と遊んでいるのかな？　そんな柳司君も可愛い……）

　そう思ったが、内緒にしておこうと口にはせず、２人で迷路へと入っていった。

「すごいね、ひまわりの迷路なんてはじめて！」

　若菜は思わず感動の声をあげた。ひまわりを見上げながら、綺麗だなぁと呟いた。柳司はそんな若菜の姿をバレないようにスマホで撮る。

（何かこういうデートも久しぶりな気がするなぁ。へへ、こういう何気ない一瞬の写真でもやっぱり良いなぁ！）

　柳司は思わず笑顔になる。彼女は変わらずひまわりを眺めていた。

（なんとなくひまわりは柳司君のイメージだなぁと思っていたりして。上を向いて太陽を目指して成長している所とか）

　そう思いながら柳司のほうをみる。彼の背丈も相まって、そのイメージがさらに強く感じられた。

（柳司君と一緒にデートは、すごく嬉しい。手、繋ぎたいな……）

　チラチラと彼の手を見るが、自分から言い出すとはしたない気がした。しかし手は繋ぎたい。若菜の脳内で思考がぐるぐる巡る。そうこうしているうちに、２人はやがて桃色ウサギの祠にたどり着いた。精霊たちが、友情や恋愛など人間関係にご利益があることを教えてくれた。さらに相手と一緒に拝めば効果倍増だという。

（何かこういうの、いかにもって感じでちょっと照れるけれど……これからもお互い幸せでいられますように）
（これから例え遠距離恋愛になったとしても、ずっとずっと柳司君と心は繋がっていられますように）

　２人はそれぞれの願いをこめて祈った。祈りを終えると迷路の出口を目指す。

「さて、迷路から出るには……」

　柳司のろっこん『有翼人-高林-』で飛ぶという手もある。上から見る迷路もきっと綺麗だろうが、色々と台無しにしてしまう気がした。

（普通に歩いて出たいなー）

　そう思うと、柳司は若菜を見た。若菜はどうしたんだろうと柳司を見ていたら、彼がすっとひざまづいた。

「ろっこん使わずに出たいんで、お嬢様もうちょっとお付き合いお願いできますか？」

　冗談っぽく言いながら彼女に手を差し出した。若菜は一気に頬が真っ赤になったのを自覚する。ずっとずっと繋ぎたいと思っていた柳司の手が今ここにある。
　彼女はゆっくりとその手を取ると、真っ赤な顔のまま柳司と迷路を進む。繋いだ手に視線を向けて、あまりの嬉しさに幸せを感じていた。

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