【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

☆あじさいの花火

　鴻上彰尋は、家族で花火を見に来ていた。
　弟や妹を連れて、屋台のある通りの近くで眺めていたが。
　ドーン！
（あれ？）
　紫陽花の花火を見ていたら、急に涙が出てきて驚いた。
（なぜだろう、泣いてしまっても全然嫌な気分にはならない……もしかしたら）
　彰尋は思い至った。
（紫陽花の想い出として翠雨の頃、不思議な紫陽花と遭遇したときの事が出てくるからだろうか。あおいさんとの、想い出のひとときの）
　だが、いやな気分じゃなくても、他の人に泣く姿を見られるのは恥ずかしい。
　周囲を見ると、幸い家族は花火に夢中で彰尋の様子に気づいていないようだ。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
　顔は見せないように母に声をかけ、その場を抜け出した。
　
　一人で屋台通りを歩いていると、やっと涙が止まった。
「せっかくだし何か買っていこう」
　屋台を見回すと色々と売っていたが、彰尋は大きなわたあめに目を留めた。
（久しぶりに買うけど、今はなんとなく甘い物が食べたい気分でちょうどいいかな）
「大きなやつをください」
　あとで弟妹達にも分けよう、と思いながら、彰尋は一口わたあめを食べる。
　
　さて戻ろうか、と周囲を見た彰尋は思いがけず見覚えのある後ろ姿を見かけた。
（あれ、もしかしてあおいさんかな？）
　ツインテールに浴衣姿。
　横顔が見えた、間違いない。
　周囲に人は見当たらないが一人だろうか。
（花火大会に来ていたんだ……声をかけてみようか）
　ドキドキしながら声をかける。
「こんばんは。綺麗な花火だったね」
「彰尋君？！　こんばんは。うん、綺麗だったね」
　あおいはちょっと驚いた様子だったが、笑顔で返事をしてくれた。
「紫陽花の花火なんてあるのかなってビックリしていたよ」
　と彰尋が言うと。
「え、そんなのがあったの？」
　あおいは目を瞬かせた。
「見なかった？　時々全然違う花火が見えちゃうっていう噂があったからそれなのかな……？」
　不思議がる彰尋。
「そんな噂があったんだ」
「もしかしたら､あおいさんも違う花火を見ていたりするの？　何か不思議な事って起きた？」
「えっ……気づかなかった。トイレに行ってる間見れなかったから、その間にあったのかなあ？」
（あおいさんは特に不思議な経験をしていないのか）
　他の話題を……と考えていると。
「彰尋君は一人で来てるの？」
　あおいのほうから尋ねてきた。
「いや、家族と来てるんだけど……あ、そうだ、わたあめ食べない？」
　家族のことを考えたら、手に持ったわたあめのことを思い出した。
「大きいね。でも弟くんたちにあげるんじゃないの？」
「いや、大丈夫、弟たちもそんなに食べないし。……あ、勿論、口をつけたところは分けるから」　
　失礼だったかな、と慌てる彰尋に。
「そんなに気を遣わなくてもいいのに。それじゃ、ちょっとだけもらうね」
　にっこりしたあおいは、すっと近づいて手をつけていないところのわたあめをパクッとかじった。
「美味しかった。ごちそうさま」
　そう言うと笑顔で手を振って、あおいは去って行った。