サマーバレンタイン♡カーニバル｜リアクション

サマーバレンタイン♡カーニバル

☆薔薇を受け取って

　寝子島町役場勤務の三折部朝衣は、一人街へ出て休日を楽しんでいました。
　２年前までは寝子高生だった朝衣ですが、社会人となっては長い夏休みなんてもう過去のもの。
　貴重な休みを目いっぱい楽しむべく、サンバイザーにライトブルーのタンクトップ、デニムのショートパンツにミュールをつっかけたいでたちでおしゃれに決めて、アイスクリームを片手ににぎわう街をぶらついています。
「あ、パレード」　
　町長がサマーバレンタインと銘打ってやっているパレードをのんびり見物するつもりでした。
「嬢ちゃん、バラをどうぞ」
　サンマさんが差し出してくれたバラを、受け取ろうと前に出た朝衣。
　元々何にでも首を突っ込みたがる野次馬気質です。
　オフの朝衣は一般市民、職場の知り合いにあまり会いたくはないものの、会った所で後ろめたいことはありません。
　しかし。
「アサギ君！　いいところに！　急に一人来れなくなったんだ、車に乗ってくれ」
　リッカルド町長に目をつけられてしまったのです。
「ええー！」
　げんなりする朝衣ですが町長のご指名とあっては逃げるわけにもいきません。
「大丈夫、後日ちゃんと振り替えて休んでもらうから。半日でいいよ」
　そういうことなら、と仕方なく朝衣は軽トラに乗り込み、サンマさんとマンボウくんに挟まれながらバラの花びらを撒く羽目になったのでした。
「サンマさん、さっきから女性にばかりバラをあげてるわね？」
「男性が女性にプレゼントするって話だからな～」
「でも、私は女性だから男性に渡していいわよね？」
　花びらを撒くのに飽きてきた朝衣は、周囲を見回し、平凡だけど爽やかな感じのショートヘアの男子高校生に声をかけました。
「サマーバレンタインのバラをどうぞ。気になる人にあげてみたら？」
　彼は驚いたようですが、バラを愛おしむようにそっと受け取ってくれました。

「サマーバレンタインっていうイベントなのか」
　思いがけず薔薇の一輪ブーケを受け取った寝子高２年の鴻上彰尋は、考え込みました。
　たまたま外出していたところパレードに遭遇したのでした。
（それならあげたいたい人は俺にはただ1人……あおいさんしか思いつかない）
　彰尋の胸に、七夜あおいの笑顔が浮かびました。
（でも無料でもらったものだけじゃ気持ちが足りないかな）
　しばらく考えていた彰尋は、その足で花屋さんに向かいました。
「あの、薔薇を2本追加で買って、申し訳ないけどこれと一緒に３本の花束に出来ませんか？」
　無理だったら、家に帰って自分でラッピングしよう、と考えた彰尋ですが。
「サマ－バレンタインですね？　いいですよ、ちょっとお待ちください」
　花屋の店員さんはにっこり微笑んでＯＫしてくれました。

　待ちながら彰尋は、前にホワイトデーに薔薇の形にしたアップルパイを贈ったことを思い出していました。
（その時に薔薇を贈る色や本数の意味とかを調べたんだけど……３本の意味は「愛しています」「告白」）
　その時作って贈った薔薇のアップルパイは７個「ひそかな愛」だったのですが。
　彰尋はすでに一度あおいに告白を済ませていました。
（また口に出せる勇気はないから……せめてこの薔薇でそっと気持ちを伝えられたら、なんて）
　イベント中だったらどこか遊びに出かけているかもしれません。
（街中で偶然で会えないかな）
　などと思う彰尋ですが……

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