迷子はこちら、親御はどちら？｜リアクション

迷子はこちら、親御はどちら？

「おうち、あそこー！」
　タイラ・トラントゥールがふとした違和感に悩みかけた瞬間、つないでいた手を急に振りほどいて、少女が勢いよくＴ字路の先にある一軒家に向かって駆け出していく。

「あっこら！」
　その後を追い走りだすタイラ。
　追いかけなければならない。
　何故かそんな思いに駆られたが、ふと、足がとまった。

　見れば少女が、正面にある家の門前でタイラを呼んでいる。
　それなのに、二人を隔てる道路を渡るべく、足を踏み出すことができないでいた。

「何故だ……？」
　こんな怪奇現象があってたまるか！
　そう叫ぼうとした、瞬間。

　眼の前を、大型トラックが横切っていく。

　轢かれかけ、ぺた、と尻もちをついてその場に崩れたタイラ。
「どういう、ことだ？」
　そこは先程までのＴ字路などではなく。
　ねずの湯や桜台墓地のある周辺に近い、少し大きな交差点だった。

　決して、何も見ずに飛び出して良いような道ではない。
　そして正面には家もなければ、子供の姿もいないのだ。
　じわじわと、背筋が冷えていく中で、クスクス、と耳元で笑う声がした。

　モウチョットダッタノニ。

　ひく、と喉が引き攣れる。
「うわああああああああ！！」
　黄昏時の寝子島に、少年の叫びが木魂していた。

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