CDショップ『Pioggia d'aprile』｜リアクション

CDショップ『Pioggia d'aprile』

●その旋律は鮮やかに

　深林真瞭は今夜『Pioggia d'aprile』の地下ステージでソロ演奏をする予定だ。今日は東京へ『出勤』の予定は無い。公式には東京にいることになっているが、現在は星ヶ丘のマンションで暮らしている。所属する交響楽団内で起きている権力闘争に疲れ果て、逃げるようにここへ来た。
　地下ステージが開放されるのは１８時からだが、準備やら何やらで早めに店に来た。ステージの様子を把握して、愛用のヴァイオリンを取り出すと軽く一曲奏でる。音の響き方や楽器の状態を確かめると、一旦それをしまった。
　まだ開始まで時間があるので、店内の１階部分をちょっと見て回ることにした。真瞭はおびただしい数のCDのなかに、自分のソロアルバムが置かれているのをみて、なんとなく気恥ずかしさを覚えた。その後も店内をまわり、何枚かジャンルを問わず気に入ったアルバムを購入した。

（家に帰ってからゆっくり聞きましょう）

　１８時になったので地下へ移動する。自分の出番までは他のパフォーマーの演奏を聞きつつ、アイスティーを口に運ぶ。

（さすがに演奏前にアルコールを入れる気にはなれないわ）

　ステージではアコースティックギターでの弾き語りやバンドスタイルでの熱唱など、実に様々な演奏が行われている。そしていよいよ真瞭の出番がやってきた。ステージの中央に出ると、観客に向けて一礼した。そしてヴァイオリンを構えると、音を奏で始める。
　曲はパガニーニの『カンタービレ』。開放的な旋律で、広い音域を縦横無尽に駆ける。その流れに乗るように、時にたゆたうように演奏を続ける。演奏が終わると、一呼吸ののち拍手が起こった。
　まだ時間が余っているようなので、夏の夜をイメージした一曲をアドリブで奏でる。色々とゴタゴタのある状況下で、たまには自分の思うように気ままに演奏したい。その感情が普段にも増して情熱的な演奏に昇華されていく。それを聞いた人々のなかにそれぞれの思い描く『夏の夜』が浮かぶ。
　演奏が終わると、ひときわ大きな拍手を受けて、真瞭はステージを後にした。

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