CDショップ『Pioggia d'aprile』｜リアクション

CDショップ『Pioggia d'aprile』

●変わらないもの

　三折部朝衣は寝子島の町役場で仕事をしていた。今日は何事もなく定時に終わったので、シーサイドタウンにある『Pioggia d'aprile』に立ち寄ることに。旧市街から歩いて橋を渡り、しばらく進むとその姿が見えてきた。

「あたしが以前来た時と全然変わってない」

　『四月の雨』という名を冠するこの店は、今日もシーサイドタウンの街中にひっそりと溶け込んでいた。音楽をスマホのアプリでダウンロードして聴くようになってからというもの、あまりCDは買わなくなった。
　店内はCDで埋め尽くされており、相変わらず音楽に満ちているという感覚に久しぶりという気がしない。色とりどりのCDジャケットを見ては、なにか買おうかと考えつつ通り過ぎる。そんなことを何度も繰り返して、気に入ったものを何枚か手にとって会計を済ませた。
　適当に店内を見て回った後は地下のフロアへ。そこでカシスオレンジを注文して席につく。

（今日は誰がステージに立つのかな）

　カクテルを口に運びながらステージに目をやると、そこに樋口弥生先生の姿があって驚いた。先生は念入りにギターのチューニングを行っている。樋口先生は寝子島高校の教師で、朝衣のかつての担任でもある。

（まぁ、樋口先生のライブは何度か聴いたことあるし）

　その安心感は今夜も健在だった。樋口先生は丁寧でありながらノリのいい演奏を客に届ける。朝衣もその演奏に耳を傾けて楽しむ。演奏が終わると拍手が起こる。満足した気持ちでいると、先生とふと目が合った。

「あら、三折部さん」
「こんばんは」
「折角だから、一緒にどう？」

　そういって手を朝衣に差し伸べる。どうやら飛び入りもOKらしいが朝衣は少し戸惑う。しかし朝衣の反応とは対照的に、ステージのメンバーも他の客たちも歓迎ムードだ。
　やれやれと思いつつも、朝衣はステージにあがるとマイクの前に立つ。演奏と心の準備が整ったのをお互いに目で確認すると、２人の熱唱が響き渡る。その熱量で場は大いに盛り上がった。

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