守ろう、スイーツランド！｜リアクション

守ろう、スイーツランド！

（動物達から聞いたムシーバたちの特徴を聞くに、菓子を食べていない者を歯痛には出来ないでしょう）
　獅子唐ケンジは戦いの様子を見つめながら、カバンからプリント用紙を取り出した。そして、すこし大きめな声で、
「美味しそうなお菓子ですが健康診断が心配ですね……」
　などと言ってみる。健康診断のお知らせを見ながら悩みつつも、手にはお菓子。
「ぎゅっ！？」
「ぎぃっ！！」
　――計画通り。ケンジは唇の端を吊り上げる。
　ムシーバ、健康診断、お菓子を食べそうな僕。この三すくみ、ムシーバを釣るには充分だ。
　皆が交戦している中、ナイトに守られながら全長２ｍもの巨大なムシーバが悠然とやってきた。
「あいつがボスかに！？」
「いくよーっ！！」
　巨大なムシーバは、ドレスを纏ったクイーンだ。ゆきのが投げたキャンディは、クイーンに届かずナイトが弾き飛ばす。
「くっ……」
「だいじょーぶ！　数は減ってるぞー！」
「いくわよ、全部踏み潰してやるわ……！」
　遠海とあんずが撃ち漏らしのないよう、ソルジャーをぼこぼこと倒していく。さすがにムシーバの軍勢も、このたった5人の少年少女達がやたらと強い事に狼狽えだした。その隙を狙ってだ。
「歯石を取るときに使うアレです、動かないで」
　クイーンの背後に回ったケンジが、シャープペンシルでクイーンの背を軽く引っ掻いたのだ。しかし、その声色は優しい。
「なっ……貴様、何をする！」
　クイーンだけは人の語を解するのか、ケンジはクイーンの声にしめたと手ごたえを得る。
「大丈夫、命を取ろうなどとは思ってないですから」
「わらわにこのような……許さぬ！」
　クイーンを人質に取られたムシーバ達は既に動きを止めている。それでも気丈に振る舞うクイーンに、何か目的があるのだろうと思いケンジは問うた。
「なぜ、皆の歯を痛くするんですか？」
「そのような事を聞いてどうする」
　語らないケンジに、クイーンは言葉を詰まらせ、ついに白状した。
「ここは夢の世界、スイーツランドじゃ。しかし……その感覚で他の地へ行ったら彼らはどうなる？　虫歯の痛みに悶える羽目になるじゃろう。それを今から伝えておくこと……それと」
　あまり好き勝手食べられては我らの取り分がなくなるじゃろう！　とクイーンは恥ずかしげに付け足した。
「はぁ、なるほど……？」
「そういうことだったんかに」
「でも……痛くするのは、だめ。……ひどい」
　環境破壊にもなるからのう、とクイーンが呟くと、ケンジはクイーンの身体を解放してやる。
「よくわかりました。……では、動物たちも僕達もほどほどに、ということで？」
「えー」
　動物たちが文句を言いそうになると、ケンジは苦笑する。
「いくらカロリーなどの問題がないとはいえ、何事もほどほどが一番というものですよ？」
「な、なんじゃ、物わかりのいい……」
　クイーンは槍をおさめると、配下たちに命令を下す。
「撤退じゃ！　今日の所は引き下がる！　――今後は程度の酷い者だけ、襲うこととする！」
　ざぁっ、と退くムシーバの大軍。
「ふん！　おとといきやがれ？　ってやつだぞ！」
　あんずが、べぇっと舌を出す。
「よし、悪いヤツもいなくなったし、お菓子を食べるぞー！」
　その掛け声に、わぁっと動物たちが集まってきた。
「私も一緒にいい？」
　遠海の問いかけに、もちろん！　と頷き合う。
「動物さんたちもうちらと一緒に食べよーよ！　みんなで食べるお菓子はすーっごくおいしいぞー！」
な、ゆきの！　とゆきのを振り返ると、既にゆきのの手には大量のシュークリーム。
「……うん」
「それでは、僕も」
「パッキー、とってきたからみんなで食べよーっ！」
　ふかふかのパンケーキの丘で食べるお菓子と、仲間たちの笑い声。シロップの水たまりは、ゆらゆらと揺れている。甘い甘い香りの中の至福のひと時が終わらなければいいのに、だなんて、思ったり。

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