破壊の大蛇｜リアクション

破壊の大蛇

　朝鳥さゆるは今日、久方ぶりに寝子高へと顔を出していた。
　現在17歳の紛れもない高校生であるさゆるだが、その見た目は高校生離れしている。

　雰囲気、眼差し、顔立ち。スラッとした脚に実った膨らみ。全てが蠱惑的とさえ言える魅力を持っているのだ。
　そんな彼女の高校生としての制服姿はどこか非現実的でさえある。

「……？　何？」

　そして、流すように授業を受けてからの昼休み。
　自らの机に突っ伏して眠りの中へと落ちていたさゆるは何か妙な気配を感じて浅い微睡から覚める。

　気だるげに顔を上げたところでまず教室の雰囲気に違和感を覚える。昼休みなのだからもっと喧騒がある筈なのに静まり返っているどころか、そもそも誰もいない。
　妙な気配は外からしたとさゆるが目を窓の外へと向ければそこには巨大な蛇が海岸近くに鎮座していた。

「あぁ、そういう事……」

　何となく状況を把握したさゆるは席を静かに立つ。
　別に世界を救いたい、等と思っているわけではない。それはただの破滅に至る道程の暇つぶしなのだ。

　あの巨大な蛇の元へ向かう途中でさゆるは落ちていた片手剣を拾っていた。
　この世界が何なのかは良く解らないが、意味ありげに落ちているのだから恐らくはあの蛇に通じる武器なのだろうと考えたのだ。

『ジャアアアアアアアッ』

　さゆるが近づくと最初は1つだった頭が幾つにも増え、その内の1つがさゆるの方へと向かって来ていた。
　害意に満ち溢れた目をした大蛇の頭は、そのまま高速でさゆるへと突進を行う。

　だが、その突進がさゆるに直撃する直前、彼女は自らのろっこんを発動させる。
　悪意が込められた攻撃を受けてさゆるの反応速度が強化され、僅かな差で突進を躱す事に成功する。

（さて、どうしたものかしらね……）

　そうしてヴリトラによる突進を何度か躱している間にどうするかを思考するさゆる。
　刃のように鋭い角によって制服が何度か切り裂かれ、太ももやお腹が露出し、果ては下着まで見えかけているが頓着はしない。

　幾つかに増えた頭だが、どうやらさゆるの元へとやってきたのは1つだけであるようだ。それ故にこの頭に集中をしても問題はないだろうとさゆるは考える。
　しかし、さゆるが拾った片手剣は明らかに強度がそこまであるとは思えない。確実を期すならば相手の急所と思わしき場所に深く一撃を入れたいところだった。

（私のろっこんは反応速度を強化するという性質上、避けるという事に特化しているようにも思えるけど、反応が速くなっているならば相手の攻撃に合わせても先手を仕掛ける事も可能な筈）

　簡単に言えばろっこんを発動状態のさゆるならば後の先が行えるのではないかと言う事だ。
　カウンターというのは、要は反応勝負。如何に相手の攻撃を先読みし、早く反応出来るかという話になる。そして、その点において今のさゆるならば勝てる公算が大きいだろう。

「ここで死ぬのならそれもよし、死なぬのなら……どうでもいいわ」

　それは自暴自棄、ともまた違う何かの感情が籠められた言葉だ。
　そんなさゆるの心境は知らないとばかりにヴリトラが再び彼女を目がけて突進を行う。

「っ！！」

　スレスレのところで突進を躱すさゆる。それは正しく紙一重を体現するかのような距離。死線が目の前、いや、鼻先にあるというような距離だ。
　躱すだけならばここまでギリギリに引き付ける必要はない。だが、ギリギリであればある程効果は高いとさゆるは踏んだのだ。

『シャアアァッ！！』

　自らの突進をギリギリのところで避けられたヴリトラは慌てたように叫びながら振り返る。
　だが、それはあまりにも遅い。いや、正確な事を言えば突進を避けられた時点でヴリトラの敗北は避けられないものとなった。
　何故ならば、避けたさゆるはその時点で既にヴリトラへと飛ぶように駆け出している。

「残念ね……」

　それは果たしてどういう意味だったのか。
　剣が肉を突き破り、さゆるの一撃がヴリトラの喉を一直線に突き刺さったかと思えば勢いのまま切り裂いていく。

『グキャアァッ！？』

　ヴリトラの断末魔。確かな事は今回もまたさゆるは生き残ったという事だ。

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