【星幽塔】　第五階層　あの味わいをもう一度｜リアクション

【星幽塔】　第五階層　あの味わいをもう一度

＞提案

（あの『聖水酒』がまさかの復活ねぇ）
　事情を知るティオレ・ユリウェイスは、「アルコール分は無くあくまでも味や口当たりだけ再現」と聞き下戸である身としては悪くないな、と考えた。
　しかし、『聖水酒』は第五階層で問題になった代物で……。
（問題はやっぱり製造されなくなった経緯が経緯なだけに、街の人の拒否反応は強いって事よね。『再現する』と言う行為そのものを妨害する動きがあってもおかしくないわ）
　そうなれば、トーヤ・アレクトロをはじめとする製作者達が危険な目に合う可能性が高い。ならば、同じものではないことを証明すればいい、とティオレは考えた。

「なるほど。作り方が全く違うって解れば理解も得られるかもしれませんね」
　トーヤはティオレの提案を聞き静かに頷く。傍で聞いていたナイト・オブ・リブラスも「それは名案である」と手を叩いた。
　ティオレが提案したのは『街の人に実際の製造過程を公開し、一切アルコール類が使われていないことを確認してもらう』という方法だった。
「販売の際、あくまでも『「聖水酒」の風味を再現したドリンク』である事を強調するの。そして、ここが大事だけど万が一『聖水酒（もどき）』で何らかの問題が生じた場合は即時販売中止・回収の上処分。製造法も永久に破棄……とするのがいいかと」
　製造方法を見せることで多くの人は納得してくれるかもしれない。だが、一定数は信じず警戒すると考えられる。さすがに全員を納得させることなどできないのだ。それゆえに、問題が起こった時のことも考えなくてはならない、と。

　ティオレの提案を聞いたトーヤは「じゃあ、お見せしますね」と製造工程を見せてくれた。
　綺麗な水と花の蜜を大きな鍋に入れ、ハーブの入った小袋を入れる。そして、それらをじっくりと煮込み、色が付いた後冷まし大きな濾過器で濾す。それをまた煮込む際、とろみを出すために『トロミの花』の葉や花びらのしぼり汁を入れ、冷ませば完成だ。
「外でも作れますので、製造工程を見せることは簡単ですね」
「出来立てを飲んでもらう事もできそうである」
　リブラスも頷き、ティオレは彼と共に説明会の準備を行うことにした。

　その過程で、ふとティオレは味が気になりトーヤに問う。
「それで、今の段階ではどんな状態なの？　試飲できるかしら？」
「ええ。これが、ルークさんが持ってきてくれた花の蜜を使ったものです」
　そういって貰ったドリンクは、かつて見た『聖水酒』とは違い仄かに桃色をしていた。この辺りで取れる樹液やハーブ等も使っていると聞き、ティオレはゆっくり味わう。
（確かに、なにか物足りない気がするわ）
　ティオレが正直に伝えると、トーヤは「やはりですか」と苦笑する。
　その傍らで、同じように試作品を貰った冒険者二人が何やら話しているのだった。

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