【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

　酒浸朱蘭は来た時と同じ姿で更衣室の前に立っていた。海水で濡れた白いＴシャツとデニムのホットパンツは完全に乾いていた。
「ごめんね、待たせちゃって」
　しおらしい声で滝原レオンが更衣室から出てきた。愛らしい水玉のワンピースを着ていた。
「大したことないぜ。今日は怜のおかげで楽しめたんだぜ！」
「本当に楽しかったね」
　二人は海の家を出た。並んで砂の斜面を上がった。
　道に出ると向かい合う。
「ここでお別れなんだぜ」
「朱蘭ちゃん、またね」
　その場で二人は別れた。

　レオンは旧市街へと軽い足取りで向かう。間もなくして後ろをそっと振り返る。朱蘭の姿は見えなくなっていた。
　ほっとした表情となり、その場にしゃがみ込んだ。項垂れるように頭を下げる。
「つ、疲れた……」
　大きな溜息を長々と吐き出す。
　ふらりと立ち上がった。空に向かって胸を反らして伸びをした。
　すっきりとした表情で歩き始めた。
「バレなくて良かった」
　本音が漏れた。同時に顔を曇らせる。
「打ち明けた方が楽になれた？」
　答えは出ない。複雑な感情を抱いて道をゆく。
「……酒浸の胸か」
　口にした瞬間、夕陽に負けない顔色となった。唇を引き結び、早足で旧市街に繋がる橋を渡った。

　猫鳴館に続く道を朱蘭は大股で歩いた。急に歩幅が狭くなる。
「また怜と遊びたいんだぜ……海は行ったから……」
　腕を組み、俯いた状態で歩いた。
「温泉はどうなんだぜ？」
　腕を解き、顔を上げた。名案とばかりに笑顔を浮かべる。
「温泉に決まりなんだぜ！」
　長い髪を風に靡かせて朱蘭は山道を走っていった。