時間よ、止まれ！｜リアクション

時間よ、止まれ！

○八神修の場合

　放課後の図書室で、修は本を読んでいた。
　遠巻きに聞こえる生徒たちの話し声の中、集中していたのだが。
（音が消えた？）
　辺りを見回した修は、僅かに眉をしかめた。
「世界の切り分けじゃないな」
　辺りの生徒たちは皆止まっていた。
　時計を見ると、これも止まっている。
　窓を開けて外を見ると、空中で鳥が静止していた。
　さっきまで吹いていた風もない。
　修は携帯を取り出し、ねこったーを開いた。
　自分のものはもちろん外国のアカウントも確認したが、ある時間から先のタイムラインが存在しなかった。

　図書室を飛び出した修は、自転車に飛び乗った。
　動くものを探す。
（物でも者でも良い、何か、誰か）
　いくら走っても動くものはない。
　神魂の不思議な現象には慣れているはずなのに、不思議に修は苛立っていた。
　やがて虚無感に襲われた。
（神魂異常なら半日程度で直る可能性が高いが……もし世界が極低速なら、向こうで半日たつ頃には俺は白骨だ）
　修は溜息を吐いた。
　科学的に分析できるが故の絶望だった。
（いや……諦めるには早い）　
　修は負けじと気持ちを奮い立たせる。
「あおいが心配だ」
　修は七夜あおいの住む桜花寮へ向かった。

（あおいも、止まってしまっているのか？）
　そのほうが幸いだろうかとは思いつつ、動いているあおいに会いたいと修は願った。
　女子寮に飛び込み、あおいの姿を探す。
「あおい！」
「修くん？！」
　部屋から出てきたあおいを見て、修の膝から力が抜けた。
「寮中見てきたけど、みんな、動かないの！　どうしよう？」
　あおいの動揺した顔を見て、修は崩れそうになる膝に力を入れた。
（彼女を落着かせる為には、俺が落着かなくては）
「大丈夫だ。いつもの神魂異変だよ、しばらくすれば直る」
　つとめて何でもないように、修は言った。
「それまでは俺が傍に居る。今までもそうだったろ」
　笑顔を向ける修に、あおいが笑い返そうとしているのがわかったが、その表情はこわばったままだった。
「そうだよね。修くんが来てくれたから大丈夫だね」
「そうだ。俺が居る」
　彼女の恐怖も不安も全部受け止め支えたい、と修は願った。

「落着いたら食堂に行こう。あおいの部屋に来れて嬉しいんだけどさ……」
「え？」」
「女子寮だから罪悪感が……ね」
　修の言葉に、あおいはくすっと笑った。
「やっと笑ったね。良かった」
　止まっている学食で、二人はセルフサービスのお茶を飲んだ。
「コップが落ちそうだな」
　学食のおばちゃんの手がすべったのか宙に浮いたままコップが止まっている。
「直せるかな？」　
　あおいの言葉に、修はコップを手に取り台の上に戻した。
「すごい！　人助けができるね」
「そうだな……よし、町へ行こうか」
「うん！」
　二人は話し合って、町へ出た。

「修くん、あの自転車」
「事故が起きそうだな。よし」
　ぶつかりそうな自転車を協力して移動したり、火事を見つけたらホースを探して水がかかるよう細工したり。
「きっと世界は動き出す。それまで俺達、できる事をしよう」
　不安を希望に変えるべく、二人は走り回った。　　

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