時間よ、止まれ！｜リアクション

時間よ、止まれ！

○綾辻綾花の場合

　綾花は、猫メモを手ににゃんこに会いに公園めぐりをしていた。
「あら？」
　急に目の前を歩いていた周囲の人たちの動きが止まった。追いかけていた猫も止まっている。
　驚いたが、神魂の不思議には慣れている。
「にゃんこも動かないから猫メモ書き放題です。これは動き出すまでなるべく多く書かなくては」
　とメモに書き込み始めたが、しばらくして思う。
「にゃんこをずっと見ていられるのは嬉しいけどやっぱり動いてる方が良いですね。嬉しそうに喉を鳴らしたり甘えてくれるのが可愛いから」
　公園を歩く綾花は、見覚えのある灰色猫と白猫を発見した。
「あっ！　テオとミラ」
　例によって不機嫌そうにそっぽを向くテオと、テオに視線を向けたままのミラが止まっていた。
　二匹はちょっと離れてるところにいるので、綾花はミラをそっと抱き上げてテオの近くに移動させた。
（動き出したらビックリするかな？　それとも元の場所に戻るのかな？）
　嬉しそうに微笑みながら、綾花は二匹に語りかけた。
「テオ、ミラ、仲良くね」

　目を上げた綾花は、遠くに動く人を見つけた。赤と黒の服を着ている。
（あれは……珪先生！？）
　驚いて駆け寄る綾花。
「綾辻さん、君は動けるんだね」
　担任の早川珪先生も驚いているようだ。
「珪先生、動かなくなってるのは他の場所もですか？　にゃんこも人も、急に動かなくなっちゃったんです」
「ああ、こっちもそうだったよ」
「珪先生はこれからどうしますか？」
「僕？」
「もし良ければにゃんこ探しを手伝ってもらいたいです。動かないから描きやすいけど、動かないので物に同化して見つけにくいにゃんこもいるんです、黒猫とか」
　そう言ってから、綾花は気になった。
「先生は何をするつもりだったんですか？　原因究明とか？」
「どうしようか考えていたところだよ……いたずらして歩くわけにもいかないだろうしね」
　ふふ、と珪先生が笑う。
「ＳＦなら時間を止めたとかそういうことなんだろうが、手がかりもなく原因究明と言ってもね……何か知ってる人を探すくらいかな？　時間が経てば元に戻るならいいけどね」
「いつ動くか分からないから車や電車の近くは行かないようにしましょう」
「猫探し、つきあうよ。猫と一緒に人や手がかりも見つかるかもしれない」
「ありがとうございます。それじゃ、行きましょう」
　
　先生と公園めぐりをしていたら、猫メモはだいぶん埋まった。
「意外と会ってないにゃんこもいるみたいです」
「手がかりは見つからないけど、こういうのもいいね」
　二人は微笑み合った。

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