寝子島のお店｜リアクション

寝子島のお店

「よーし。今日も頑張るぞー」

　ロッカールームらしき部屋でそう言うのは落合まゆらだ。本日はCamicieＸrosse!!というファミリーレストランでバイトの日である為に、仕事着である制服へと着替え始める。
　このCamicieＸrosse!!の女性の制服は赤いセクシーなもので、この制服を着た女性スタッフ目当てに男性客が来る事もあるという。
　セクシーというだけあって、へそ出し等少し露出が多目でありバイトを始めた当初はまゆらも少々恥ずかしかったのだが、今となってはすっかり慣れたようだ。

「笑顔、笑顔」

　鏡に向かってまずは身だしなみを整えた後に、まゆらは今度は鏡の中の自分に笑いかける。別に鏡の中の自分と話せるとかそういうわけではなく、これはフロアに出る前にいつもしている笑顔の練習だった。
　今日もこんな笑顔で頑張ろう、とまゆらは思うのであった。

「Ciao!　カミチエ・ロセへようこそ！」

　まゆらの元気で通りの良い声がCamicieＸrosse!!の店内に響き渡る。ロッカールームの鏡の前でしたのと同じ笑顔で店内に入って来たお客さんを出迎えている。

「はい、3名様ですね。おタバコはお吸いになられますか？　はい。では、席の方へご案内致します！」

　店内へと入って来たお客さんへと迅速に対応するまゆら。テキパキと動くその姿はそれなりに仕事に慣れているという事を感じさせる。
　まゆらがこうしてフロア担当として働き出してから約三カ月。こうしてこの店で働いて彼女が思うのは接客業は割と自分に向いているという事であった。

（学校の方も忙しいし、結構ハードだけど時給が結構良いんだよね、ここ）

　とは言えども、接客業の常としてやはり理不尽なクレーム等も時にはあったりする。その対応には未だに苦労する事もあるのだ。
　だが、基本的にここのお客さんや店の人たちは良い人達ばかりで、働く環境としては理想的なものに近い。少なくとも学校に通ってる間はここで働こうかなとまゆらは考えていた。

　まゆらは寝子高芸術科を卒業し、現在寝子島アニメーション学院声優科に通っている。つまりは声優を目指しているというわけだ。
　そのまゆらからすると接客業は目指している声優の仕事と相通じているような気がするのだ。どちらも人に喜んでもらう事が仕事だからではないかと彼女は考えていた。
　だからきっと接客業も自分には向いているのだとまゆらは思う。何故なら、人の笑顔を見るのが好きだから。

「Ciao!　カミチエ・ロセへようこそ！」

　すると、再びお客さんが来店した事を知らせる入店音が聞こえて来たので笑顔で挨拶をして、そちらの方を見る。そこで入って来たお客さんの顔を確認したところである事に気付いた。

（……あれ？　もしかして、遠藤君？）

　遠藤健。まゆらが通っていた寝子高の後輩であり、それなりに付き合いのあった人物だ。
　表面的には出さないようにしつつもあの子が来るなんて珍しいなー、なんて思ったり。そして、折角だから少し驚かそうとばかりに水とお絞りを持って彼が案内された席へと向かう。

「失礼致します」
「あ、どう、も？　え、落合先輩？」
「ふふ、ようこそCamicieＸrosse!!へ。珍しいねぇ、ここに来るなんて」

　悪戯が成功したとばかりに微笑むまゆら。一方の健と言えばここで会うとは思ってなかったのかかな驚いているようであった。

「いやぁ、びっくりしましたよ。落合先輩、ここでバイトしてたんですか？」
「うん、そうだよ。もう三ヶ月くらいになるね」
「たまに来るんですけど、知らなかったなぁ。……ところで、落合先輩、その制服良く似合ってますね。眼福とはこの事か」
「あはは、ありがとう。最初は恥ずかしかったんだけどね。おっと、ごめんね、そろそろ仕事に戻るね」
「はい、頑張って下さい。あぁ、そうだ。また連絡するんで今度一緒に遊びましょう」

　普段とは少し違うそんな一幕がありつつもまゆらは今日も元気にバイトを熟していく。

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