どうぶつライフ｜リアクション

どうぶつライフ

●ライオンという生き物

　神野美野梨は猫鳴館の大部屋で気ままに過ごしていた。ここは猫鳴館所属の学生だけでなく、他寮の学生、旧市街やシーサイドタウンなどの寝子島住まいの人も出入りできる。今も美野梨以外に数名が各々自由にくつろいでいる。そして、それは静かに起こった。
　美野梨が最初に感じたのは視点の変化だった。見える景色がいつもより少し高く感じたが、すぐに自分のほうが低いのだと気づいた。両手両足を床につけてバランスを取っている。手を見ると毛で覆われており、いつも見ている手よりだいぶ大きい。

「……ガウ？」

　他にも気づく点が多々あり、美野梨はいま自分がライオンになっていると確信した。

（神魂の影響かしら？　生物部員としては興味深いわね）

　美野梨は自分の変化に好奇心が芽生えていた。しかしそんな気持ちとは裏腹に周囲は驚きと混乱に包まれた。

「なん……だと……！？　ライオンの放し飼いは流石にまずいんだぜ！？」

　みんな一斉に距離を取り警戒レベルを高める。室内にライオンが前触れなく現れたら当然だろう。

（他の人は変化しないのかしら？　警戒されてるわね……）
（ええと、放し飼いじゃないわ、猫鳴館からは出ないから……室内犬のようなものと思ってもらえれば）

　美野梨は自分に危険性がないことを説明しようとするが、ヒトの言葉が話せない。そこで閃いたとばかりに爪で文字を書き始めた。

『人ハタベナイワ　肉ハホシイケド』

　なぜ後半の一文を加えたのか。周囲に緊張が走る。

「えーと、しし神よ、しずまりたまえー……ほんとのライオンだー！　こわいー！」
「こうすればいいって聞いたの！」

　皆が慌てふためくなか、寮生の１人が両手を水平にして『待て』のポーズをとる。思わず動きを止めた美野梨を見て、周囲の空気が少しずつ落ち着き始めた。そして先ほどと同じように爪で文字を書く。

「……あれ、なんか書いているがんす～？」
　
『神野デス　オサワガセシテゴメンナサイ』

　ここに来て、ようやく一同は落ち着きを完全に取り戻す。全然状況は分かっていないが、神魂の２文字が全員の脳裏を掠めた。

（ライオンが外をうろうろしてたら大騒ぎになるわね……）

　大部屋の混乱は収まったものの、下手に動くわけにもいかないので美野梨はしばらく自分の部屋にいることにした。自室につくと適当なところに体をおろす。

（桜花寮じゃなくてよかったわ。公式な寮じゃないから、大人に見つかる心配はないわね）
（押し売りの撃退に役立つかしら？　……いえ、こんなボロ寮に来るなら押し売りより借金取りよね）

　自分がライオンであることにも慣れてくると、研究心が沸いてくる。部屋のなかを歩いたり伸びをしたり。様々な動作から筋肉の動き方などを調べる。

（でもメモが取れないのは残念。誰か、写メを後で送ってくれないかしら？）

　人間に戻ったらライオンの生態をレポートにまとめよう。
　美野梨はそんなことを考えながら眠りにつくまでの時間を研究に費やした。

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