本日は臨時休業で｜リアクション

本日は臨時休業で

●店主達の過ごし方

　自作の歌を歌い終えた新井いたごは、気持ち良く歌ったところで配達をどうするか考える。
　明日でいいところは電話で謝罪し、鮮魚をいつも仕入れてもらってるところは、ちくわと干物を持って様子見がてら説明に行くことに。
「おっと、ギターを持って行かないとねえ。ちくわと干物も忘れずに」
　ごめんねソング弾き語りといきますかと、お得意さんを回る。
　訪ねた先で「何で休みなの？」と聞かれると思ったが、仕入れられなくて休みなんだってね、と説明前に言われた。
「情報早いな。説明するより前に事情を知ってるんだから。だったら、話が早いよ」
　臨時休業のお詫び、とお店のちくわと干物を手渡すと、歌いながら次のお得意さんへ。
　その件について聞いたお店の主人の店も臨時休業だった。
「最後に『うみねこ』さんに寄っていこうか」
　新装開店した時に息子が手伝いをしたことを思い出す。
　一度行ってみたいと思っていたが、行く機会があまりなかったのでちょうどいい。

　店の入り口に太い筆文字で書いた『臨時休業』の張り紙を貼った宇佐見満月は、何をしようか考える。
　魚新がやむを得ない事情で臨時休業になったのは、魚がなければ商売にならないから。
　うさぎ屋や他のお店も似たような状態なので、そうなるのは無理もない。
　いつもは開店準備や下ごしらえと忙しいのだが、突然の休業に何をすれば……と悩む。
　じっとしているのは性に合わない。家の中を歩き回り、何をしようかと考える。
「そういえば、夏のフリマはもうすぐだったねぇ。この際、溜まっている夏物ヤーンの大処分会でもしようかねぇ？」
　押入れの中にしまってある紙袋を取り出すと、ガサゴソと中身を探る。
「色が変わるヤーンは、っと……ああ、コレコレ」
　ワゴンセールで買うだけ買ったヤーンだが、店の仕事や他のことで忙しく、編み物をする暇などなかった。
「久しぶりに時間が取れたんだ。ゆっくり編もうじゃぁないかい。大作にしようかね？」
　フリマ商品の他に、弟がお世話になっている魚戸ハルコにお礼として、何か編んで持っていくことにした。
　カーディガンを編もうと思ったが、手持ちのヤーンでは少し足りない気がする。
「あらま、困ったねぇ。三角の肩掛け程度ならイケるかねぇ？」
　旧市街のお店のほとんどが臨時休業なので、ヤーンを買ったお店も臨時休業かもしれない。
　無駄足はごめんだね、と、家にある分で、とりあえず肩掛けを編もうか、とかぎ針を取り出す。

　フリマのお客さんやハルコのことを思い、満月は丁寧に一針ずつ編み上げる。
「糸の始末をして……あー、いったった、集中し過ぎたねぇ」
　時が経つのも忘れるほど編んでいたので、時間はあっという間に過ぎて行った。
「うん、大作完成！　……前ボタン付けるより、結んだ方が雰囲気出るねぇ」
　肩掛けを身につけ、姿見でシルエットを確認。
「我ながら良い出来だ。もう少し手を加えたら良い出来になりそうだねぇ」
　何時かねぇと時計を見た時、満月のお腹が鳴る。
「もう昼かい。腹が減るわけだよ。ご飯、ご飯っと」
　編み物を一旦中断し、ありあわせのもので昼食を作って腹ごしらえ。

　それが終わると、最後の仕上げに。
「これなら、フリマに出しても恥ずかしくないねぇ」
　細部をチェックし、出来具合に満足。
「次は単色ヤーンでレースバックにでもしてみようかね？」
　今日はお休み。出品するものも、ハルコのお礼も納得いく出来になるまで編める。

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