【星幽塔】第一階層　夢のマイホームを解放せよ！｜リアクション

【星幽塔】第一階層　夢のマイホームを解放せよ！

◆地下：宝物庫/3
毒を霧のように撒き散らしながら、キマイラが大きく後ろへと跳んだ。
修が魔水の盾を展開。毒を受け止めながら、盾の一部を変じてウォーターカッターを放つ。
水の刃が脚をかすめ、キマイラがわずかに体勢を崩す。
すかさず、サキリが鞭モードの蛇腹剣を振るった。
襲いかかる風の乱刃を、体勢の崩れすら利用した跳躍で魔獣はかわす。けれど完全には避けきれず、獣毛と、血と、わずかな肉が飛び散った。
その懐へ、アスワドが潜り込む。
しかし、刃は振るえない。キマイラが、振るわせない。
頭を一つ潰された手負いの獣は、激烈なまでの反応速度で爪を薙ぎ払う。
アスワドが飛び退きかわせば、さらに旋転。ヘビの牙が閃く。
「まあまあ、青汁でもどうぞ」
月詠が、鰐牙包丁をバットのように振り抜いた。ボールの代わりは、青汁の瓶。
大きく開いたその口に、便はものの見事にすっぽりと。
間抜けな音が、ヘビの口から漏れる。
次の瞬間に、牙が瓶を砕いていた。青汁がヘビの口元を汚し、床に撒き散らされる。
続けざま、ヘビの頭――より正確には目と鼻孔の間の辺りを目がけ、ヒューマが薬瓶を投げつけた。
当たった拍子に瓶が割れ、ヘビの目と鼻の間を覆うように、中に入っていた粘つく液体が流れ出す。
ヘビが、戸惑ったように頭を揺らした。威嚇するように毒を吐くけれど、狙いを定められていないのか、不正確極まりない。獅子の頭も、それに戸惑っているようだった。
（こっちもうまくいったみたいだ）
「たたみかけるなら、今のうちかもね」
ヒューマ自身は、攻撃に使えるような薬品の持ち合わせはほぼない。けれどこれで、隙を作ることはできたと思う。
あとは、皆に任せよう。

今度こそ、と修が『魔水の光』を行使する。
魔法水の球が、ヘビ頭を包み込む。ごぼっとヘビの吐いた息が、水球を揺らす。
失態に気づいたキマイラが、水球を振り払うように体ごと尾を振り回す。けれど特製の魔法水は、まとわりついて離れない。
しびれをきらしたように、ヘビの頭ごと水球を床へと叩きつけるキマイラ。
破裂音とともに水球が弾けた時、ヘビはようやく気づいた。
ほとんど地を這うような低い姿勢で、刀が己を捉えていることに。
刀身を鞘に引っかけるようにして放つ、抜刀術。
振り向き、毒を吐こうとした時には、既にヘビの頭は落ちていた。
勢いのまま、後ろ足まで斬って捨てようと日本刀を振り抜く刀。
そこへ、キマイラは後ろ蹴りをぶちあてた。
「ぐ、っ……！」
二つの頭を失ったとは思えない重さの蹴りに、刀はあえて大きく吹っ飛んだ。
それでもなお、腕が若干痺れるほどの衝撃。
尾の恨みとばかりに、キマイラは旋転し吠え立てる。
その右から、アスワドが。左から、サキリが転移で飛びこんだ。
アスワドには、爪を。サキリには、獅子の牙を。
刃と交差する猛獣の爪牙が、剣戟もかくやの火花を散らす。
続けざま、キマイラがサキリ目がけて跳んだ。サキリもまた、『斬空赤刃』で跳ぶ。
直後、爪の一閃を受けた床が、弾けるようにえぐり取られた。
欠片というには大きすぎる破片が、サギリに榴弾みたく襲いかかる。
床を踏み砕いたキマイラが、もう一度跳ぶ。その動きは爆発的で、しかし同時に直線的。
「そこだっ！」
修が、水の刃を一閃させた。
身をひねるキマイラ。しかしその右肩を、水刃は深く大きくえぐり取っていた。
魔獣が吠える。痛みをこらえるためというよりはむしろ、追い詰められてなお己を奮い立たせるために。
そんなキマイラの眼の前に、中華鍋が一つ。
それは、月詠がぶん投げた緋色大鍋だ。投げ、そして然る後に『絵空事』の進化能力。
直後、咆哮と金属音が響く。魔獣の豪腕が、大鍋を弾き飛ばす。
刹那、キマイラの頭上にサキリが跳んだ。
剣の姿へと戻した蛇腹剣、その切っ先が赤と緑の二色に輝く。『斬空赤刃』の進化能力に『魔風の光』を重ねたその刃は、竜巻を纏う赤光の剣となって一閃する。
振り抜いた勢いのまま、サキリは着地する。
竜巻と赤光が消えた蛇腹剣を手に振り向けば、キメラの首がずるりと落ちた。

……かくして、マイホームの魔物は退治されたのだった。

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