紫陽花の庭園にて｜リアクション

紫陽花の庭園にて

【エピローグ】

　しばらくして、月詠とタルトが戻って来た。
　途中で出会った紫と蒼も一緒だ。
「紫陽花っていいよね～、色が変わるところが。土との掛け算で、色が変わったりするんでしょ？」
　四阿に入って来ながら、タルトが言う。
「普通はそうみたいね。でも、ここのは何を苗床にするかで変わるの。ジャンケンに負けた人たちからもらったものを、苗床にするのよ」
「へぇ、そうなんだ～」
　紫央里の言葉に、タルトが目を見張る。
「じゃあ、私のストラップも？」
　尋ねたのは、蒼だった。
「ええ」
「どんな紫陽花になるのかしら」
　うなずく紫央里に、蒼は問う。
「あなたのストラップを苗床にした紫陽花は、あれよ」
　対して紫央里は、四阿に近い位置に咲いた紫陽花を示して答えた。
　それは、白と深い青の綺麗なグラディーションの紫陽花だった。
「わあ、綺麗！」
「おお～！」
　思わず声を上げる蒼とタルトに、月が呟く。
「ほう、こんなに短期間で育つんだな」
「ええ。……ここは、そういう所だから」
　うなずくと紫央里は、月のリボンや月詠の絵を埋めた場所をも示した。
　リボンを苗床にした紫陽花は、深い紫色だ。
　絵を苗床にした方は、月詠が描いたとおりの七色の紫陽花が咲いている。
　小雨の中の紫陽花たちは、幻想的な美しさを呈していた。
　全員がそれを、改めて声もなく眺める。

　ややあって、月詠が小さく吐息をつくと、言った。
「名残り惜しいが、そろそろお暇しよう」
「そうだな」
　夢から覚めたように目をしばたたいて、月もうなずく。
　彼女は紫央里をふり返ると、言った。
「楽しかった。また来てもいいか？」
「ええ、もちろん。あの川辺で私の名を呼んでくれれば、迎えに行くわ」
「ありがとう」
　うなずく紫央里に、月は礼を言う。
　そのやりとりに、紫も蒼をふり返った。
「私たちも失礼しましょう」
「あ、うん」
　蒼がうなずく。
「みんなが帰るなら、僕もそうするかな」
　気楽な調子でタルトも言う。
　そんな一同に、それではと紫央里が案内に立った。
　ほどなく、庭園の門が見えて来る。
「へぇー、こんな門があったんだ～」
　驚いた顔で言うタルトに、月詠が自分たちはここを通って庭園に来たのだと説明した。
　やがて彼女たちは、紫央里に見送られて門を出る。
　通り抜ける瞬間には、やはり痺れたような奇妙な感覚があった。
　門の外はすでに雨が止んでおり、一同はそれぞれに傘をたたむ。
　雨上がりの空の下、彼女たちはおのおの家路をたどり始めた。
「今日は楽しかったね」
「そうね」
　笑顔でそんな言葉を交わすのは、蒼と紫だ。
　タルトは、飲食したものの味や外見などを、色とりどりの紫陽花たちと共に思い出して、思わずにんまりとする。
（アトリエに戻ったら、紫陽花で何か創作ができないものか）
　ふとそう思いついて、途中で紫陽花を摘んだのは月詠だった。
　星ヶ丘寮に戻った彼女は、さっそくその紫陽花で染め物を始めた。
　花だけで染めると花の色に染まり、茎や葉を一緒に入れると緑色になることに気づいて、彼女はなるほどとうなずく。
（ふむ。なかなか、面白いな）
　胸に呟き、飽かずあれこれと試してみる彼女だった。
　一方、月は寮に戻ると、ノートに書き留めたイメージをまとめる作業に追われた。

　こうして、紫陽花の庭園でのひと時は、終わりを告げたのだった――。

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