日曜日。
桜 月と
旅鴉 月詠の二人は、小雨が降る中、天宵川の川沿いの一画にいた。
あたりには、青や紫、ピンクの紫陽花の群れが咲き競っている。
「すごいな……」
目を見張ってそれらを眺める月詠に、月が笑ってうなずく。
「だろう? 先日通りすがりにここを見つけたんだ」
「雨の中というのが、またいいな。おかげで、他に人もいないし、晴れている時とは別の風景が見られる」
月詠は、視線は紫陽花たちに向けたまま、呟くように言った。
共に星ヶ丘寮に住む彼女たちは、友人でもある。
月詠が雨の中、目的を定めずに散策に出ようとしていたところに、ちょうど同じように寮を出て来た月が行き合わせた。
それで、月が以前に見つけてあった紫陽花の群生地に行こうということになったのだ。
雨に打たれる紫陽花の群れは、なんとも風情がある。
二人はしばらくそれを、黙って眺めていた。
「あなたたち、紫陽花が好きなの?」
そんな彼女たちに、声をかけて来た者がある。
ふり返ると、そこには二十代前半ぐらいに見えるストレートヘアの女性が立っていた。
「もしよかったら、私の庭に来ない? 紫陽花がちょうど見ごろなの」
二人は、思わず顔を見合わせた。
二人とも、まったく知らない相手だった。だが、無害そうに見える。
「紫陽花には興味があるが、お邪魔ではないだろうか」
月詠が尋ねた。
「大丈夫よ。……これから帰ってお茶でもしようかと思っていたんだけど、一人ではつまらなくて」
やわらかく微笑んで言う女性に、二人はまた顔を見合わせる。
「こういうのも、ありだろう」
月が月詠に囁いた。
「何か危険があれば、ろっこんを使って回避すればいい」
「ああ」
月詠もうなずき、女性をふり返った。
「それでは、お邪魔させてもらう」
「どうぞ、喜んで。私は蒼井 紫央里よ。よろしく」
女性は笑顔で返すと、二人を案内して歩き出した。
到着したのは、古めかしい鉄の門のある庭園の入口だった。
紫央里に案内されるままに、二人はその門をくぐったが、その時一瞬、全身が痺れるような妙な感覚と頭痛に襲われた。
(なんだ? 今のは……)
月詠は思わず眉をひそめたものの、それらはすぐに治まった。
つと隣を見れば、月も何か妙な顔をして首をかしげている。
だが、それについて話すより早く。
生垣に囲まれた小道が終わり、二人の目の前には色とりどりの紫陽花が群れる庭園が現れた。
そこはまさに紫陽花の庭園だった。
至るところに紫陽花が咲いている。
同じ色でも、それぞれ色合いが違っていて、見る者の目を楽しませてくれる。
「こっちよ」
ただ息を飲んでそれらを眺める二人を、紫央里が促した。
やがて二人が案内されたのは、その紫陽花たちが一番よく見える位置に建てられた四阿(あずまや)だった。
中には丸いテーブルと、それを囲むように椅子が置かれている。
勧められるままに二人が椅子に腰を下ろすと、どこからともなく現れたメイドたちが、テーブルの上にお茶やお菓子の用意をし始めた。
それらを幾分、呆然と眺める二人に、紫央里は言った。
「ただお茶をするんじゃつまらないから……私と勝負をしない?」
「勝負?」
月詠が問い返す。
「そう。私とジャンケンをして勝ったら、好きなものを好きなだけ飲んだり食べたりしていいわ。そのかわり負けたら、今身に着けているものを何か一つ、私にちょうだい」
うなずいて答える紫央里に、月詠と月はまたもや顔を見合わせた。
「勝負か。さて、どうしよう?」
月詠が呟き、考え込む。
「たしかに、初対面でただご馳走してもらうだけというのは、悪い気もするが……」
月も言って、思案顔になった。
紫央里はそんな二人を、ただ笑顔で見守っている。
雨は一向に止む気配もなく、四阿を包み込むようにして、ただ降り続けていた――。
桜 月さま、旅鴉 月詠さま、ガイドに登場していただき、ありがとうございました。
こんにちわ。
マスターの織人文です。
寝子島は6月、6月といえば紫陽花――ということで、今回は紫陽花が咲き誇る庭園が舞台のガイドです。
以下、今回のガイドについてご説明します。
◆この庭園は、現実の世界ではありません。
門の中は、神魂の影響で空間にできた裂け目の向こうの世界です。
特別、寝子島や住民の生活に影響を及ぼすものがあるわけではないですが、何かの加減で行き来できたりすることがあるようです。
◆参加PCさまには、紫央里とジャンケンをしてもらいます。
・勝った場合→お茶やお菓子類を好きなものを好きなだけ飲食できます。
・負けた場合→今身に着けているものを、何か一つ差し出してもらいます。その後、再度勝負に挑むこともできます。
勝敗の判定は、私が実際にサイコロを振って行います。
アクションには、勝った場合に何を飲食するかを書いていただけると、ありがたいです。
負けた場合に何を差し出すかも、書いていただけるとうれしいです。
また、ジャンケンで何を出すかは、書いても書かなくてもOKです。
なお、差し出したものはこの庭園の紫陽花の苗床となるため、二度と戻りません。
勝負は拒否することも可能です。
ただ、その場合は飲食はできません。
◆紫央里の目的について
一つは、庭園の紫陽花を増やすことです。
この庭園の紫陽花は、門の外から持ち込まれたものを苗床にして、短時間で成長します。
そのため彼女は、苗床となる物品を必要としています。
もう一つは、他人とおしゃべりしながらお茶を楽しむことです。
ジャンケン勝負には、レクリエーション的な部分もあります。
◆庭園に来た理由は、ご自由にどうぞ。
紫央里に誘われた、でもかまいませんし、自分で迷い込んだり気がついたらいた、というのでも問題ありません。
もちろん、それ以外の理由でもOKです。
◆NPC
【蒼井 紫央里】
二十代前半と見える女性。
長い黒髪でストレートヘア。
庭園の主らしい。
◆紫陽花の庭園
至る所に紫陽花の群生がある庭園。
一番眺めのいい場所に、四阿(あずまや)が造られている。
門の向こうと同じく、小雨が降り続いている。
◆その他
・紫央里やメイドたちには害意はないようですが、四阿から離れすぎると迷ったり、何かに驚かされたりするかもしれません。
・どなたでも、参加いただけます。
・行動は基本的に自由です。
以上です。
みなさまの参加を、心よりお待ちしています。